研究課題
多くの多細胞生物はギャップ結合チャネルと呼ばれる細胞間コミュニケーションを担う膜貫通構造を保持している。脊椎動物が保持するコネキシンギャップ結合チャネルの構造研究は結晶学的手法とクライオ電子顕微鏡法によって複数の報告がなされているが、その開閉機構についての構造基盤は明確には示されていない。本研究ではヒトが持つギャップ結合チャネルコネキシンの高分解能構造解析をクライオ電子顕微鏡単粒子解析で行い、コネキシンの開閉機構と生理機能の解明を目的としている。本年度はconnexin32(Cx32)の発現精製を行い、クライオ電子顕微鏡構造を得た。ナノディスクに再構成したCx32ギャップ結合チャネルとGraDeR法(Hauer et al. 2015)でフリーの界面活性剤ミセルを除去した可溶化状態のCx32ギャップ結合チャネルを調製し、単粒子解析法で、それぞれ3.9Å分解能、3.8Åで三次元再構成に成功した。可溶化状態のCx32は、そのN末端領域がチャネル通路に存在する可能性が高いが、マップの密度が乏しく、側鎖をアサインできるものではなかった。ナノディスクに再構成したCx32はN末端領域がチャネル通路の中で膜面に水平に存在しており、N末端領域の構造変化が示唆された。先の基盤研究Cから引き継いだナノディスクに再構成したINX-6ヘミチャネルのクライオ電子顕微鏡構造を論文にまとめ、発表した(Burendei et al. 2020, Sci. Adv. 6, eaax3157)。この論文では脂質がチャネル通路に入り込んで、開閉に寄与するモデルを提唱した。
2: おおむね順調に進展している
Cx32ギャップ結合チャネルの発現・精製は安定している。ナノディスク再構成とGraDeRの再現性も良く、クライオ電子顕微鏡用の試料は安定して供給できている。これまでデータ収集に用いたクライオ電子顕微鏡はマニュアル操作で大量データ収集が難しいが、試料の再現性が特に良いため、地道にデータを集めて分解能が4Åをようやく下回るところまで来ている。粒子の数が増えれば分解能の改善が期待される。
本研究では、Cx32のN末端領域の密度が機能の議論に必須であるため、この部分のアミノ酸側鎖の分離が明確なマップにしたい。これまで粒子数が約14万粒子から計算して3.9Å分解能であるため、粒子数を増やして分解能を向上させる必要がある。自動データ収集機能を備えたクライオ電子顕微鏡を持つ研究機関と共同して100万粒子以上のデータセットから構造計算を行う予定である。また、Cx26も発現精製は確立しており、ナノディスク再構成とクライオ電子顕微鏡像の撮影を行う。
すべて 2020 2019 その他
すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (3件) (うち国際学会 1件、 招待講演 1件)
Science Advances
巻: 6 ページ: aax3157
10.1126/sciadv.aax3157
細胞
巻: 51 ページ: 8, 11