研究課題
本研究では、緑膿菌由来の異物排出タンパク質複合体の機能する現場で形成する正確な構造や抗菌剤放出に関わる部位の構造を解明し、抗菌剤を菌体外に放出する機構を明らかにする。本年度は、MexAB-OprM複合体及び抗菌剤結合型の全容を明らかにし、構成タンパク質間の詳細な相互作用様式及び抗菌剤結合に関わる構造について調べることを目的とした。そのために、以下のことを行った。I. 2つの生体膜を貫く巨大なMexAB-OprM複合体の詳細な構造情報:前年度の本研究課題で、クライオ電子顕微鏡単粒子解析法により3.7オングストローム分解能の解像度でMexAB-OprM複合体の三次元再構成像が得られていたが、構成タンパク質間の相互作用領域で不明瞭な部分もあったため、解析に用いた粒子数を増やし局所的な静電ポテンシャルマップの最適化を行った。II. MexAB-OprM複合体の構成タンパク質間の詳細な相互作用様式の決定:I.の構造情報から得られた相互作用に重要なアミノ酸残基について変異体を作製し、前年度に本研究課題で確立した菌体の抗生物質への耐性をみる菌体生育実験系を利用することにより、排出機能への影響を調べた。III. 抗菌剤放出機構に関連する構造解析:クライオ電子顕微鏡単粒子解析法による抗菌剤結合型MexAB-OprM複合体の構造解析に着手した。グリッド作製では、MexAB-OprM複合体のみの構造解析で用いたグリッド条件では、単粒子解析に耐えうる良好な画像が得られなかったので、抗菌剤結合型MexAB-OprM複合体のグリッド作製条件を検討した。最適なグリッド作製条件から抗菌剤結合型MexAB-OprM複合体の画像取得を行った。抗菌剤放出機構がホモログ分子でも保存されているのかを構造的に理解するために、MexAB-OprM複合体のホモログ分子の大量発現系構築に着手した。
2: おおむね順調に進展している
静電ポテンシャルマップの最適化を行うことにより、相互作用領域の静電ポテンシャルマップの解像度が改善し、構成タンパク質間の相互作用に関わる重要なアミノ酸残基を同定できた。同定したアミノ酸残基の変異体を作製し、菌体生育実験により、それらアミノ酸が複合体形成に重要であることを実証した。抗菌剤結合型MexAB-OprM複合体の画像取得を終え、単粒子解析を進めた。MexAB-OprM複合体のホモログ分子の構造解析では、MexAB-OprM複合体とは異なる抗菌剤を排出するMexXY-OprM複合体の各構成タンパク質について大量発現系の構築とそれらの精製条件を検討した。MexXについては、構造解析に耐えうる十分な純度の精製標品が得られる精製方法を確立した。MexYについては、発現系の構築ができ、構造解析に向けた精製条件の検討を行った。
緑膿菌由来の異物排出タンパク質複合体MexAB-OprMの機能する現場で形成する正確な構造を解明し、抗菌剤を菌体外に放出する機構の理解に向けて今後以下の方策で進める。I. 抗菌剤放出機構に関連する構造解析本研究課題により画像取得に成功した抗菌剤結合型MexAB-OprM複合体の構造解析を行う。また、ホモログであるMexXY-OprM複合体の構成タンパク質の構造解析を進める。II. MexAB-OprM複合体の菌体外への異物排出機構の提案MexAB-OprM複合体と抗菌剤結合型MexAB-OprM複合体の原子レベルでの構造を比較することにより、異物排出に重要なアミノ酸残基を特定し、その変異体を用いて、最小発育阻止濃度法により排出機能への影響や、等温滴定型熱量測定による抗菌剤への結合や相互作用領域における結合の変化を検証する。これらの結果と原子レベルでの構造変化からMexAB-OprM複合体内で起こる連携した菌体外への異物排出機構を提案する。
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すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件) 備考 (1件)
Journal of Biological Chemistry
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http://www.protein.osaka-u.ac.jp/rcsfp/supracryst/research/theme/yakuzai-haisyutu/