研究課題
呼吸と生体エネルギー発生の機構は古くから人々の興味を惹きつけてきた生命科学の中心課題の一つであるが、その本質はミトコンドリアで行われているプロトンポンプにある。これを担っている巨大膜タンパク質がチトクロム酸化酵素であり、我々が呼吸で取り入れた酸素分子(O2)を利用して、プロトンをミトコンドリア内膜の内側から外側へポンプしている。本研究の目的は、X線自由電子レーザー(XFEL)による時間分解X線結晶構造解析と時間分解分光解析を組み合わせた先端計測により、チトクロム酸化酵素のプロトンポンプ機構を原子レベルで明らかにすることである。反応の追跡には、紫外光照射によってO2を放出するケージドO2を用いる。本年度は溶液試料及び結晶試料を用いて、チトクロム酸化酵素の反応を時間分解紫外可視吸収分光法で追跡した。314 nmのナノ秒パルスでケージドO2を光分解した後、遅延時間1 usから5 msの範囲で反応を追跡した結果、A中間体(活性中心にO2が結合した第一中間体)及びF中間体(O2のO=O結合が開裂した後の第三中間体)の捕捉に成功した。しかし、反応の鍵となるP中間体(O2のO=O結合が開裂した直後の第二中間体)を再現よく捕捉することはできなかった。本研究はケージドO2を用いた初めての反応追跡であるため、反応条件の検討が必要である。また酵素反応の時間分解振動分光測定に向けて、顕微赤外分光装置を開発した。多数の微小ウェルを集積した赤外セルを赤外顕微鏡に導入し、時間分解赤外分光が行える測定環境を整備した。
2: おおむね順調に進展している
溶液試料及び結晶試料においてチトクロム酸化酵素の反応を追跡することに成功し、次年度に繋がる成果が得られているため。
鍵となる反応中間体(P中間体)が蓄積する反応条件を、時間分解紫外可視吸収分光法を用いて探索する。反応条件を見つけ次第、時間分解X線結晶構造解析や時間分解振動分光法による反応解析に挑戦する。また開発した装置を他の呼吸酵素群にも適用していく。
すべて 2020
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件)
Bull. Chem. Soc. Japan
巻: 93 ページ: 825-833
10.1246/bcsj.20200038
放射光
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