研究課題/領域番号 |
19H03172
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
伊藤 拓宏 国立研究開発法人理化学研究所, 生命機能科学研究センター, チームリーダー (70401164)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 生体分子 / 電子顕微鏡 / 翻訳 / 翻訳開始因子 / リボソーム |
研究実績の概要 |
【1】ISR制御機構については、eIF2-eIF2B GEF活性型複合体とeIF2-P-eIF2B GEF不活性型複合体の2つの構造についてクライオ電子顕微鏡解析とX線結晶構造解析を併用し立体構造を決定した。eIF2-eIF2B GEF活性型複合体では、eIF2Bの活性を担うHEATドメインがeIF2γに結合しており、eIF2BによるGDP/GTP変換反応が行われている構造が捉えられた。一方、eIF2-P-eIF2B GEF不活性型複合体では、HEATドメインは特定の位置に固定された状態として観察されず、活性化反応が阻害されている状態が捉えられた。このときeIF2γは、eIF2Bとは強く結合しておらず、代わりにリン酸化eIF2αがeIF2Bの主要な結合領域となっていた。リン酸化eIF2が一つでもeIF2Bに結合すると、その反対側でのeIF2Bの非リン酸化eIF2との相互作用領域まで覆ってしまうため、リン酸化eIF2はリン酸化されたeIF2自体の活性化を防ぐだけでなく、他のeIF2の活性化をも防ぐ機構となっていることが明らかになった。本研究によりISR制御機構の原子レベルでの理解が格段に進んだ。これらの結果についてScience誌に発表した。 【2】NMD発動機構については、PTC認識リボソームを模したリボソームについて、試験管内翻訳系を用いて準備を進めた。ペプチド終結反応が起こらない変異型eRF1を用いて終結直前の状態で停止したリボソームを調製する方法について、調整方法を検討した。SMG1複合体とUpf複合体、EJC-mRNA複合体については安定して調整する方法を確立した。これらを混合してcryo-EMでの測定を目指したが、解析に適切な像を得るには至っていない。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ISR制御機構については、期待していた結果が得られており、さらに詳細な解析へと進むことができている。NMD発動機構については、試料の調製が順調に進んでいる。
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今後の研究の推進方策 |
【1】ISR制御機構については、ISRを抑えることにより、神経変性疾患を抑える機能が知られている医薬性小分子ISRIBの活性発現機構を明らかにすることを目指す。そのために、eIF2B単体とeIF2-P-eIF2B GEF不活性型複合体の2つの構造について、より良い分解能のデータを得られる条件を探索し、3Å程度の高分解能の立体構造を決定することを目指す。さらには変異体を用いた生化学的・物理化学的解析を行い、ISRIBの作用機序の原子レベルでの理解を目指す。 【2】NMD発動機構については、まず、PTC認識リボソームを模したリボソームについて、試験管内翻訳系を用いて準備する。ペプチド終結反応が起こらない変異型eRF1を用いて終結直前の状態で停止したリボソームを調製する方法を確立させ、DECID超複合体の調製の土台とする。そして、SMG1複合体とUpf複合体、EJC-mRNA複合体と混合し、DECID超複合体の再構成を目指す。DECIDの形成がcryo-EMでの測定に耐えるほど安定ではない時には、クロスリンクを導入して十分に安定なDECIDを調製することを目指す。また同時にリボソーム複合体を含まないDECID超複合体や、SURF複合体についても、同様の手法でcryo-EMに適切な試料調製方法を探索する。cryo-EMでの測定に適したグリッドが作成できれば、定法に従って測定から解析へと進める。
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