概日時計の基本骨格は転写フィードバック制御である。bHLH-PAS型の転写因子であるCLOCKとBMAL1はDNA上の時計シス配列E-boxに結合して一群の遺伝子の転写を活性化する。この標的遺伝子の中にはPeriod (Per)やCryptochrome (Cry)が含まれており、転写・翻訳されたPERとCRYはCLOCK-BMAL1による転写活性化を抑制する。このとき同時に、E-boxを介してリズミックな転写調節を受けるRev-erbは、DNAシス配列RREの転写活性を抑制することにより、E-boxと逆位相の転写リズムを生み出している。この概日時計の転写フィードバック制御の中で、どの時計シス配列がどの時計遺伝子の転写リズムを制御することが時計振動に必要不可欠であるのか、という根本的な問いが未解決である。そこで本研究では、遺伝子近傍の時計シス配列をゲノム編集技術により欠損し、特定の遺伝子の転写リズムを消失させてその効果を評価する。これまでの研究で時計遺伝子Bmal1の転写制御領域にある2つのRRE配列を欠損すると、Bmal1遺伝子の発現リズムが一定になるが、時計振動は継続することを示した。本年度には、RNA-Seq解析やプロテオーム解析を実施し、数理シミュレーションのデータと併せて議論することにより、RRE欠損が与える生理的な悪影響を浮き彫りにした。以上の成果はNature Commun誌に掲載された。さらに本年度には、時計出力boxとしてNamptのE-box欠損マウスの解析を継続した。当該マウスでは、Nampt遺伝子の発現リズムが低く一定になるが、個体・組織レベルでどのような異常が見られるのかを解析した。さらに、E-boxを介したNamptリズムの意義を個体レベルで明らかにするため、体外受精により大量繁殖させ、長期飼育することにより老化や寿命に対する影響を評価している。
|