研究課題/領域番号 |
19H03183
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
中井 正人 大阪大学, 蛋白質研究所, 准教授 (90222158)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 細胞内蛋白質輸送 / 蛋白質膜透過 / オルガネラ / 葉緑体 / 植物 |
研究実績の概要 |
本研究計画の目的は、植物を支える葉緑体の形成の根幹メカニズムの全容を解明する点にある。葉緑体が有する光合成システムは、数千の葉緑体蛋白質が正しく葉緑体内へ運ばれアセンブリーすることにより維持されている。この輸送はATPの加水分解エネルギーを必要とし、外包膜と内包膜の蛋白質膜透過装置、TOCおよびTICトランスロコンと、Ycf2輸送モーターによって行われている。われわれはこれまでの研究によりTICとYcf2輸送モーターがそれぞれ1メガダルトン、2メガダルトンという巨大膜蛋白質複合体であることを明らかにし、それぞれすべての構成因子を決定することに成功している。また、これらメガコンプレックスが外包膜と内包膜の2つの膜を介して接触した超複合体を形成していることが分かった。これらメガコンプレックスがどのように連動して葉緑体蛋白質をサイトゾル側からストロマ側まで輸送しているのか作動原理については、各複合体や超複合体の3次元立体構造情報が必要であるが、まだ構造解析に適した複合体精製には、世界のどの研究室においても成功していない。本研究では、精製に適した出発材料から見直し、TOC-TIC-Ycf2モーターが3者複合体として安定に単離できるような精製方法の確立を目指す。光化学系を多く蓄積した緑葉の葉緑体から、含有量の少ない蛋白質輸送装置複合体を精製するには、効果的な精製用のタグを用いる必要がある。タグ付加による、複合体の不安定化、タグ配列埋没による親和担体との相互作用の立体障害、等の問題を解決するため、新たなタグの導入を複数種類並行して進めてきた。そして、タグを付加した形質転換体数種類を用い、その発現量、複合体へのアセンブリーの程度、複合体の安定性、精製の特異性等様々な条件での検討を加え、精製にもっとも適した形質転換体の絞り込みを進めた。また、精製のためのアフィニティ樹脂の改良も行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
作成してきたタグ付加型の植物形質転換体は概ね出揃い、それを用いた生化学的解析を進めることができている。それぞれのタグに応じた精製方法を検討する一方で、タグ付加が複合体の発現量や安定性に与える影響も調べることができた。また、新たに開発されたデタージェントや、これまで研究室では使用したことのなかったデタージェントも、可溶化実験において試すことができ、それぞれの可溶化特性の比較もできている。予想していた通り、付加されるタグによって、またその発現系によって、複合体アセンブリーの状態が異なり、また安定性にも影響が出ていることが観察されている。精製の際の塩濃度も、安定性に影響を与えると同時に、精製の純度にも大きく影響を与えることもわかってきた。これらの結果を踏まえて、次年度への精製方法のさらなる絞り込みへの道筋がついたと考えられる。また、精製に用いるアフィに二ティー樹脂や、そこからの溶出に用いる配列特異的プロテアーゼも、市販のものに頼るのではなく、自前で調製することにも成功している。自前のツールでは、市販のものを利用していた時には問題となった、混入物や問題点を解決するための工夫を取り入れることができ、今後の精製に役立つと期待している。また、国際共同研究として実施した緑藻を用いた解析もPNASに論文発表することができ、この緑藻の系での複合体精製も視野に入れて研究を進めることが可能となった。
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今後の研究の推進方策 |
これまで作成してきたタグ付加型輸送装置を発現するトランスジェニック植物各種を用いて、精製の比較解析を進めることで、どの形質転換体からの精製が、もっとも安定な輸送装置複合体を大量に調製することが可能か、絞り込みを完了させた上で、精製条件の再最適化を進めていく。その際、形質転換体を育てる光生育条件も、厳密に検討する必要がある。これまで、通常の光条件で3~4週間育てた植物から単離した葉緑体を用いてきたが、これでは多量の光化学系を含むチラコイドが発達しており、葉緑体膜を材料として可溶化を行うと、大量の光化学系も一緒に可溶化されてしまい、蛋白質輸送装置複合体の高度な精製の障害となる。これを防ぐには、例えば暗所で育てた黄化葉から単離したエチオプラストを用いる方法もあるが、本研究でターゲットとしている蛋白質輸送装置複合体は、根などの非光合成組織で発現する非光合成タイプとは分子組成が異なる光合成タイプのものであり、やはり光照射下で分化した葉緑体を単離して用いるのが望ましい。そこで、いずれの問題もクリアできる方法として、芽生え後2週間程度の展開後ごく初期の本葉を用いることも検討している。実際、葉緑体の蛋白質輸送装置の蓄積は、葉緑体発達過程のごく初期に構築され、その後、これによって大量に運ばれる光化学が蓄積していくことが知られている。葉緑体単離の時期を最適化することで、蛋白質輸送装置精製のための試料調製方法を確立する。
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備考 |
大阪大学蛋白質研究所の中井正人准教授らの研究グループは、カリフォルニア大学のピーター・ウォルター教授ならびにジュネーブ大学のジャンダビ・ロシェ名誉教授らとの共同研究によって、陸上植物の葉緑体タンパク質輸送装置に極めて似た分子装置が、植物の進化的起源とされる緑藻でも必須の役割を担っていることを世界で初めて明らかにしました。
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