病原性細菌や日和見菌の薬剤耐性は抗菌剤等を利用した化学療法の大きな課題であり、細菌膜に存在する多剤排出輸送体による投与された薬剤の排出は薬剤耐性を引き起こす大きな要因の一つに挙げられている。本研究ではグラム陰性菌の細胞質からペリプラズム領域に薬剤を排出するMajor facilitator superfamily(MFS)型の多剤排出トランスポーターの薬剤認識とその輸送機構の解明を目指し研究を行った。具体的には1)MFS型-多剤排出輸送体MdfAを使い生化学、構造解析、シミュレーションを用いて、薬剤分子認識やその薬剤排出の輸送サイクルを明らかにする。2) 構造未知の病原菌由来の輸送体の構造解析を行いその共通性を生化学実験と構造情報から迫る。ことを目標とした。 本年度の研究実績としては、 1) MdfAを認識する4つの抗体を用いてそれらがどのような構造状態を認識しているかをクライオ電顕を用いて確認することを目指してきた。これまで10オングストローム程度の分解能のマップしか得られなかったが、MdfA-抗体複合体を精製後にさらに架橋しさらに精製することで、より安定な複合体を得ることができた。その結果、クライオ電顕グリッド作成の際に起こってしまうと予測されていた抗体のMdfAからの解離を防ぐことに成功し、現在2つの抗体について4オングストロームを超える分解能のマップを得ることができた。これまで知られている構造と一部異なる外向き構造が得られ、現在マップの改善とモデルの精密化を行なっている。2) S.aureusのトランスポーターNorAにおいては阻害剤存在下での精製に成功し、現在タンパク質の構造を認識する抗体の取得について実験が進んでいる。 またMDシミレーションを用いて薬剤の結合サイトを予測した結果、薬剤結合、輸送に関与するであろう残基を特定し、現在生化学実験を開始している。
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