研究課題/領域番号 |
19H03187
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
柴田 穣 東北大学, 理学研究科, 准教授 (20300832)
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研究分担者 |
高橋 裕一郎 岡山大学, 異分野基礎科学研究所, 教授 (50183447)
鞆 達也 東京理科大学, 理学部第一部教養学科, 教授 (60300886)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 単一分子分光 / 励起スペクトル / エネルギー移動 / 過渡的中間体 |
研究実績の概要 |
本研究では、多くの色素分子を結合し複雑な構造を持つ膜タンパク質である光合成タンパク質のAssembly中間体の同定を目指す。そのため、植物細胞に含まれる全光合成タンパク質を可溶化し煩雑な精製過程を経ずに全部の成分を単一分子分光により観測することで、微量しか含まれないと考えられるAssembly中間体を検出する。光学顕微鏡の空間分解能で一つ一つのタンパク質が分離できるほどサンプルを希釈し、極低温共焦点顕微鏡により観測することで、各分子は顕微鏡像の輝点として観測される。エンドウマメの葉について、可溶化条件や希釈率の最適化を行うことで、80 Kにおいて光化学系I、光化学系IIおよび光捕集タンパク質LHCのスペクトルを示す多くの輝点の検出に成功した。数多く検出された輝点の中には、既知のスペクトルには帰属できない未知の成分も多く見つかった。これらの未知成分の同定は今後の課題である。 研究分担者である東京理科大学の鞆教授グループとは、通常のクロロフィルよりも長波長に吸収ピークを持つクロロフィル-f(Chl-f)を結合するシアノバクテリア、Halomicronema (H.) hongdechlorisを対象とした研究を行っている。H. hongdechlorisは、720 nm程度の遠赤色光で培養すると、Chl-fを合成するようになり、光合成色素の一部がChl-fに置換される。遠赤色光培養に移行した途上のH. hongdechlorisから抽出した全光合成タンパク質を単一分子分光により観測することで、Assembly中間体の同定を目指す。2019年度は、H. hongdechlorisから精製した光化学系Iの単一分子分光実験を行った。Chl-fの蛍光バンドの偏光異方性を測定することで、Chl-fがタンパク質内でどのような向きに結合しているかを同定する実験を始めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2019年度は、植物から可溶化した全光合成タンパク質の単一分子分光の実験を初めて行い、条件の最適化を繰り返すことでほぼ目指していた結果を得ることが出来た。Assembly中間体を検出するためには、中間体が多く蓄積していることが想定される強光条件下に置いた植物や、暗黒化で発芽させた後、光照射して光合成タンパク質合成を開始させた植物などを対象とした実験を行う。2019年度にはこうした条件での実験はまだ行えておらず、通常の条件で栽培した植物から抽出した全光合成タンパク質の単一分子分光に成功した。この実験においても、既知のスペクトルには帰属できない未知の成分が見出された。これらの成分の帰属は今後の課題であるが、これらの成分は本研究で目指すAssembly中間体である可能性もあり、期待以上の成果が挙げられたと考えている。 現状の実験設備では、単一分子分光で検出される多くの輝点の蛍光スペクトルが測定されるが、同時に励起スペクトルを測定可能とする顕微鏡の開発を行ってきた。このシステムを用いて、モデル生物であるクラミドモナスの細胞内光合成タンパク質の分布と、細胞内の各場所での励起スペクトルを取得する実験を進めた。この測定では、生育環境の光質の変化に応じた光捕集タンパク質LHCの細胞内移動をイメージング測定から検証することを目指している。本実験で、LHCは光質の変化により移動することが観測されたが、興味深いことに光質を元の条件に戻すとLHCも元の場所に戻ることが観測された。このことは、LHCが局在する場所を記憶していることを意味している。その他、励起スペクトル測定共焦点顕微鏡を液体窒素温度でも使用可能となるように、真空チャンバーの設計、製作を行った。
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今後の研究の推進方策 |
強光照射により光損傷を起こす条件にした植物について、植物からの全光合成タンパク質単一分子分光の実験を実施する。強光照射後直後の植物から可溶化したサンプル、強光照射後数分間暗所に置いた植物から可溶化したサンプル、などのいくつかの条件について実験を行う。前者では、損傷した光化学系の成分が多く見つかると期待され、後者の条件では損傷した光化学系を修復するシステムの働きにより修復途上にある成分が見つかると期待している。これまでは、葉の細胞をブレンダーで破砕して抽出したチラコイド膜からタンパク質の可溶化を行ってきた。この手法では、細胞破砕までに時間がかかるため、上記の強光照射後の時間変化を追跡する実験には適さない。そこで、採取した葉を液体窒素で急速凍結し生体反応を停止させた後に葉の組織を破砕し葉緑体を抽出する手法を確立する。こうした実験は、暗黒下発芽の植物に光照射して光合成タンパク質合成を開始させた系についても同様に行う。 励起スペクトル測定共焦点顕微鏡は低温でも動作可能となっており、このシステムを用いた全光合成タンパク質の単一分子蛍光スペクトル、励起スペクトル測定の実験を開始する。上記の様々な条件下から抽出した光合成タンパク質のスペクトル成分の分布を明らかにし、過渡的に表れるAssembly中間体の検出を目指す。 研究分担者の岡山大学の高橋グループでは、光化学系IのAssembly補助因子であるYcf3、Ycf4を含む複合体の精製に成功している。こうしたサンプルの分光学的測定を行い、色素分子がどのような状態でこのAssembly中間体に結合しているかを明らかにする。こうした実験結果と、上記の単一分子分光測定から得られるデータを総合することで、Assembly中間体の実像に迫ることを目指す。
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