研究課題
精子鞭毛の軸糸断片ダイニン集団と微小管を相互作用させ、光ピンセットを用いて力や変位を測定することにより、ダイニン集団の力発生特性を明らかにした。実験では、ガラス面に結合しているbundle上または1本のダブレット上のダイニンに重合微小管を還流して結合させた後、光ピンセットで捕捉したビーズを微小管に結合させた。捕捉したビーズ微小管をダブレットに結合させた後、溶液中のcaged ATPを紫外線照射により分解してATPを放出させ、ダイニンによる力発生を誘導した。その結果、軸糸が出す力は軸糸の長さに比例し、1マイクロメートルあたり約15pNであった。長さあたりの力はbundleでも差がなかった。一方、1本のダブレットでは力の大きさは長さにあまり依存せず、約5pNの力が最も頻繁に測定された。ダイニン1分子の力は約5pN、ダブレット上のダイニンは約114分子/mと報告されているため、15pNはダイニン約3分子程度、つまり全体の約3%のダイニンによる力である可能性が示された。心筋ミオシン多分子が発生する力を計測し骨格筋ミオシン多分子と比較すると、心筋ミオシンは骨格筋ミオシンに比べ低負荷でより頻繁に逆向きステップをしており、最大力も高いという固有の特徴が得られた。この心筋ミオシン多分子固有の性質の分子メカニズムを調べるために、負荷がかけられた時のミオシンの振る舞いを計測するミオシン1分子実験を行った。その結果、心筋ミオシンは3段階の安定な変位を前後にステップ状に変位していることが観測された。したがって、心筋ミオシンの2段階のパワーストロークとその逆反応を行うことが示唆された。
2: おおむね順調に進展している
今年度の主な研究計画は、ダイニン及び心筋ミオシン多分子における振動現象や力発生過程を測定すること、多分子運動をシミュレーションすること、そして、装置の改良を行うことであった。今年度は、ダイニン多分子を様々な階層に分けて計測することができ、また、多分子の心筋ミオシンの測定でいくつか面白い側面が見えてきたことは、予想以上に進捗である。また、樋口研で得た、心筋の筋節振動に関して、反応をシミュレーションによって再現できそうであることが理解された。装置の改良に関しては、微粒子の大きさを小さくすると急激に散乱共同が減少し、かえって測定ノイズが増加することから、改良の方針を改める必要性があることがわかってきた。以上のことから、おおむね順調に研究は進行していると判断した。
精子軸糸ダイニンや心筋ミオシンの実験は順調に進んでいるので、測定条件を変えて、今後も測定を続ける。それとともに、得られたデータのステップ解析やどの反応モデルが最も実験結果を説明できるかを検討する必要がある。心筋筋節振動のシミュレーションの反応速度を変化させた場合に、最も良いパラメーターがなんであるかを決定する必要がある。装置の改良は、粒子の大きさにこだわるだけでなく、装置の低周波(100Hz以下)のノイズを抑制することも重要なので、多面的に装置を改良するのがよいだろう。
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