研究課題/領域番号 |
19H03189
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
樋口 秀男 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 教授 (90165093)
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研究分担者 |
佐々木 一夫 東北大学, 工学研究科, 学術研究員 (50205837)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 心臓 / 鞭毛 / モータータンパク質 / ミオシン / ダイニン |
研究実績の概要 |
軸糸ダイニン分子では,Duty ratio(力を出す割合)が低い可能性がある。これを検証するため、ウニ精子鞭毛の外腕にある21Sダイニンの運動アッセイで割合を求めた。ダイニン密度と滑り速度の関係から力を出す割合は約7%となった。このことから、軸糸およびbundle で長さ当たりの力が小さい原因が低いduty ratio にあることが示された。さらに、duty ratio が低い原因を探るため、21S ダイニンのATPase cycle における微小管へのアフィニティーを調べた結果、ADP、AMPPNP、no nucleotide ではダイニンの微小管へのアフィニティーはATP 存在下と比較して3 %にまで低下することが明らかになった。21S ダイニンのATPase cycle 中で強結合を観察できなかったことは、ダイニンのduty ratio が低い原因の一つであることを示唆する。 ミオシンの分子特性の違いは,心臓や筋肉における収縮,弛緩を担うミオシンとアクチンの相互作用に大きな影響を与える.研究では,心筋ミオシン,骨格筋ミオシンの分子特性が如何にこれらの臓器の収縮機能に活かされているのか検証した.以前の研究結果から,心筋ミオシン集合体の力発生は骨格筋ミオシン集合体のそれとは大きく異なることを見出した.更にシミュレーションモデルによって,これらの違いは各ミオシン分子が発するリバースストロークの頻度に依存する可能性が示唆された.この結果を検証するため,光ピンセットを用いた1 分子計測技術により,ADP とリン酸溶液中において負荷に対する心筋,骨格筋ミオシン1 分子の構造変化を評価した.その結果,心筋ミオシン分子はパワーストロークとリバースストロークを発することによって,3つの構造状態間を遷移することが判明した
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2020年度の予定では,高時間分解能の装置の改良,ミオシン多分子運動及びダイニンの振動の実験的測定,振動現象や多分子の運動メカニズムを理論やシミュレーションから解明することであった.装置の改良は難航をしている.その原因は,時間分解能を上げるためにレーザートラップする粒子のサイズを小さくすると直径の3~4乗に比例して散乱強度が落ちることである.照明用レーザーのパワー及び集光度を高くすると熱を持つことと,照明によって粒子が捕捉される問題がある.そこで,現在装置の改良と並行して,データー解析によって分解能を上げる試みをしている.例えば,現在使用しているstep finding algorism は後退運動の検出精度が低いので,上げる改良を行っている.多分子運動や多分子振動の実験的測定は順調に進行している.論文にまとめるために実験データーを増やしている.理論解析に関しては,ミオシン多分子の運動を説明する理論を構築中である.また,シミュレーションによって,振動が再現できるようにシミュレーションモデルを改良中である
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今後の研究の推進方策 |
ミオシン多分子運動実験は順調に進んでいるため,今後論文化に向けた追加実験を行う.ダイニンの振動の実験的測定の結果はおおよそ得られたが,まだ論文にするには不十分な点があるので,今後論文に向けた研究を行う.この実験とカップルして振動現象や多分子の運動メカニズムの理論解析を進める.また多分子運動のシミュレーションはある程度進んだが,振動シミュレーションは始まったばかりなので,今後振動シミュレーションの改良を行う.装置の高時間分解能化は,装置開発と解析の両面から進める.
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