研究課題
本研究では、リガンドの結合によるGタンパク質共役受容体(GPCR)の活性化からGPCRとの結合により活性化されるGタンパク質が解離するに至るまでのメカニズムを、PaCS-MD/MSMなどの最先端のシミュレーション法で明らかにすることを目指している。前年度より開始した、実験的にA2Aアデノシン受容体との複合体構造が得られているアゴニストおよびアンタゴニストについて、PaCS-MDによる受容体からの解離シミュレーションに関しては、前年度に完了していたNECA以外のリガンドの結合自由エネルギーの計算をおこなった。これらの計算でも実験的に得られる結合自由エネルギーを再現できた。次にA2Aにリガンド(NECA)と3つのサブユニットが存在するフルGタンパク質(Gs)が結合した活性化状態の構造を用いてその状態の立体構造モデルを構築し、その安定性を分子動力学計算で確認した。この研究は理化学研究所のアドナン・スリオカ研究員や、東京工業大学のチャン・フ・ズイ助教、トロント大学のスコット・プロッサー教授、カリフォルニア大学サンディエゴ校のロジャー・スナハラ教授らとの国際共同に進展した。スリオカ研究員がこの構造を用いて数理剛性理論で解析することで、A2ARのリガンド結合部位からGタンパク質へ長距離の情報伝達経路を特定できた。またプロッサー教授らのフッ素19核磁気共鳴法によってA2ARへのGタンパク質やリガンドの結合によるNMRスペクトルの変化が明らかになり、A2ARには、少なくとも2つの不活性状態と3つの活性状態が同時に存在しており、その共存比率がリガンドの結合やGタンパク質の活性化状態に依存して変化することがわかった。これらの研究成果は2021年3月19日付の科学誌「Cell(セル)」オンライン版に公開され、同誌4月号に掲載された。
1: 当初の計画以上に進展している
本研究でフルGタンパク質Gタンパク質(Gs)が結合した活性化状態の立体構造モデルを構築したことで国際共同研究が進展し、これにより不活性状態と活性状態の共存、その共存比率がリガンドの結合やGタンパク質の活性化状態に依存して変化すること、長距離の情報伝達経路が明らかになるなど、予想以上の研究成果が得られたから。
昨年度の研究を継続すると共に、Gタンパク質共役受容体(GPCR)の活性化からGPCRとの結合による活性化メカニズムの研究に取り組む。具体的には、ターゲットとしているGPCRであるA2Aアデノシン受容体とGタンパク質の複合体の研究を進める。Gタンパク質に関しては、αβγの3つのサブユニットが存在するフルGタンパク質として、既に計算を開始しているGsタンパク質に加えていくつかの異なったGタンパク質との複合体モデルを構築する。リガンドの有無、Gタンパク質にGTPあるいはGDPが結合しているか、何も結合してないかによって構造のダイナミクスにどのような違いが表れるかを最先端の分子シミュレーションで詳しく調べる。
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すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (5件) (うち国際共著 1件、 査読あり 3件) 学会発表 (11件) 備考 (4件)
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