研究課題/領域番号 |
19H03193
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研究機関 | 静岡大学 |
研究代表者 |
山崎 昌一 静岡大学, 電子工学研究所, 教授 (70200665)
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研究分担者 |
岡 俊彦 静岡大学, 電子工学研究所, 准教授 (60344389)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 単一巨大リポソーム法 / 抗菌ペプチド / 細胞透過ペプチド / 脂質膜中のポア形成 / ペプチドの膜透過 / 膜電位 / 生体膜のイメージング / 生体膜のダイナミクス |
研究実績の概要 |
1.巨大リポソーム(GUV)に膜電位を与える方法を新しく開発し、それを用いて抗菌ペプチド(AMP)のラクトフェリシンB(LfcinB)による膜中のポア形成や膜破裂に対する膜電位の効果を研究した。まず、LfcinB と1個の大腸菌と相互作用により細胞質内にドープした蛍光プローブ・カルセインの急激な膜透過が起こるが、プロトンイオノフォア・CCCPの存在下で抑制されることを見出した。また、同様の結果をLfcinB と1個の大腸菌スフェロプラストとの相互作用においても見出した。一方、LfcinB と1個のGUV(大腸菌から抽出した脂質からなる膜)との相互作用を単一GUV法で研究し、局所的な膜破裂による急激な蛍光プローブ・AF647の膜透過が起こることを見出した。さらに、局所的な膜破裂の速度定数が膜電位により増大することを見出した。この結果は、AMPと膜の相互作用に対する膜電位の効果を初めて直接的に示した。
2.細胞透過ペプチド(CPP)のトランスポータン10 (TP10)の膜透過性に対する膜電位の効果を研究した。まず、膜電位の大きさを蛍光プローブ・DiOC6(3)のGUVの膜中濃度により評価した。蛍光ラベルしたTP10(CF-TP10)のGUV内腔への侵入は、小さなリポソームであるLUVを内腔に含むGUVとCF-TP10との相互作用により検出した。膜電位を増大させると、ポア形成は起こさずにCF-TP10はGUV内腔へ侵入し、その侵入速度Ventryは膜電位とともに増大した。また、CF-TP10のGUV膜中濃度は膜電位とともに増大した。その他の実験結果も併せて考えると、膜電位の増大によるCF-TP10の内側の単分子膜中の濃度の増加が起こり、それがVentryを増大させたと考えられる。この結果は、CPPのVentryに対する膜電位の効果やそれに関連する素過程を初めて明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
抗菌ペプチドによる脂質膜中のポア形成および局所的な膜破裂に対する膜電位の効果や、細胞透過ペプチドの膜透過に対する膜電位の効果に関して、それぞれ最初の結果を論文で発表することができた。
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今後の研究の推進方策 |
(1)抗菌ペプチドのポア形成や膜破壊に対する膜電位の効果のメカニズム。令和元年度の研究により、マガイニン2 (Mag)のGUV中のポア形成の素過程(ポア形成の速度定数など)に対する膜電位の効果の一部が明らかになったが、次年度はそのメカニズムを解明するために、Magと膜の相互作用に対する膜電位の効果をさらに研究する。また、令和元年度の研究により、LfcinBが誘起するGUVの局所的な膜破裂や膜透過の増大に対する膜電位の効果が明らかになったが、そのメカニズムを解明するためにLfcinBとGUVやスフェロプラストの相互作用をさらに研究する。 (2)細胞透過ペプチドの膜透過に対する膜電位の効果。令和元年度の研究により、蛍光ラベルしたTP10の膜透過に対する膜電位の効果が明らかになったが、次年度は蛍光ラベルされていないTP10の膜透過への膜電位の効果を研究する。また、令和元年度に引き続き、細胞透過活性を持つ抗菌ペプチドLfcinB (4-9)のGUV や大腸菌スフェロプラスにおける膜透過の素過程に対する膜電位の効果を研究する。 (3)抗菌ペプチドのポア形成に対する膜張力の効果。令和元年度は生理的イオン強度下で浸透圧により発生するGUV膜の張力を評価したが、その結果を応用することにより、Magやその他の抗菌ペプチドのポア形成に与える膜の張力の効果を単一GUV法により研究する。 (4)膜電位による膜物性の変化、ペプチドとの相互作用による膜の構造変化。(1)(2)で記述した膜電位の効果のメカニズムを解明するために、膜電位のよる膜物性の変化をGUVを用いて研究し、その結果を理論的に解明する。また、ペプチドと膜の相互作用による膜の構造変化をX線小角散乱法などを用いて研究する。
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