研究課題/領域番号 |
19H03197
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
多田隈 尚史 東京大学, 定量生命科学研究所, 協力研究員 (10339707)
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研究分担者 |
安達 成彦 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, 物質構造科学研究所, 特任准教授 (70707489)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 1分子計測(SMD) / 核酸 / 蛋白質 / 分子モーター |
研究実績の概要 |
遺伝子発現は、親和性が弱い相互作用によって担われているが、細胞内では、特定の構造や足場(scaffold)に必要な因子が集積化する事で、効率的に反応が進んでいる。本研究では、その分子機構理解の為に、DNAナノ構造(DNA origami)のナノメートル精度の分子配置技術を用いて、遺伝子発現機構のナノ反応場の再構成と解析を目的としている。 我々は、これまでに、DNAナノ構造上に転写酵素(T7 RNA polymerase、以下T7 RNAP)と基質遺伝子を集積化した"転写ナノチップ"を構築し、その性質を探ってきた。一方で、ナノチップの構築には、課題も見つかった。例えば、ナノチップでは、負電荷の塊であるDNAナノ構造に蛋白質を集積化するが、等電点の低い蛋白質は、結合が遅く、ナノチップの構築と精製が困難であることが明らかになった。この問題を解決するために、正電荷のペプチドタグを蛋白質に融合させたところ、結語速度定数が700倍向上し、ナノチップの収量向上にも貢献する事がわかった。また、DNAナノ構造は、長い1本鎖DNAを、短い多数のstaple鎖で折り畳むが、従来は長い1本鎖DNAとしてファージ由来の物を用いてより、配列を自在に変更する事が難しかった。そこで、asymmetric PCRを用いる方法を確立した。 また、真核の転写においては、RNAPのC末に位置するドメイン(CTD)が重要であるが、天然変性領域でカチッとした構造を取らない為、従来は、RNAPに対して、どのような空間配置をしているのかが明らかではなかった。そこで小角散乱を用いることで、その相対的な配置のモデルを得た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、ナノ分子配置技術を用いて、遺伝子発現機構の反応場の再構成と理解を目標としている。 本年度は、主に、①ナノチップ構築技術の向上に注力した。また、②ナノ反応場における反応解析には、1分子解析が有効であるが、ナノ反応場における反応は、親和性が弱い相互作用によって進むので、通常の蛍光1分子観察手法(50 nM以下の蛍光基質条件下でのみ観察可能)では解析が困難である。そこで、高濃度の蛍光基質条件下(~microM)における1分子観察が可能な、ナノ開口観察(Zero-mode waveguides:ZMWs)用の基板の作製条件最適化を行った。更に、③ナノ反応場の分子機構理解には、構造解析も重要であるが、従来よりも少量のサンプルで迅速に原子分解能を得ることが可能なクライオ電子顕微鏡技術の習得にも注力した。 ①の構築技術では、DNAナノ構造の構築や、ナノチップへの蛋白質集積化の技術が向上し、均一な多量のサンプルを調整する事が可能となった。 ②のZMWs基板では、表面処理条件の最適化を行い、観察シグナルがより安定的に得られるようになった。③のクライオ観察では、様々な性質の試料に対して、グリッド作製の条件検討を多数行った。 本年度は、計画した各項目について、進展が見られた。特に、今後の基盤となる構築技術の向上では、期待以上の進展が見られた。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、1) 真核転写の反応系を更に開拓していく(酵母のPol IIの系)。特に、転写開始後の1時停止の分子機構の仕組みを調べていく。また、2) ナノ反応場の観察技術の開発にも引き続き注力する。更に、3) これまで別々に準備してきた個々の技術の融合を行っていく。転写ナノチップを、ナノ加工技術を用いて作製した基板や、クライオ電子顕微鏡と組み合わせていくことで、従来にない実験系を構築し、遺伝子発現の本質の理解に努める。
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