研究課題
本研究は、シンプルなホヤ幼生の中枢神経系をモデルとして、単一細胞トランスクリプトーム解析などのゲノム生物学的な手法と発生生物学的な手法を組み合わせことにより、中枢神経系に存在する全てのニューロンについて、異なる神経サブタイプを生み出す分子機構を解明する。そして、ホヤにおける知見を他のモデル動物の知見と比較し、進化的に保存された普遍的なニューロンの分化機構の解明を目指している。ホヤの中期尾芽胚期、後期尾芽胚期の単一細胞トランスクリプトームの結果から、ホヤ幼生の中枢神経系には24種類の細胞群が存在することが明らかとなった。これら24 種類の細胞には、新規の細胞群とともに、光受容細胞、コリン作動性ニューロン、GABA作動性ニューロン、ドーパミンニューロン、表皮感覚ニューロンなど既知のニューロン群が含まれていた。同定した各ニューロンにおいて特異的に発現する転写因子を検索し、その機能解析を行った。特に今年度はGABA作動性ニューロン、表皮感覚ニューロンに着目して研究を行った。ホヤの脳内には1対2個のEminescence(Emi)細胞と名前が付けられたニューロンが存在している。単一細胞トランスクリプトーム解析の結果、Emi細胞はGABA作動性ニューロンであること、マーカー遺伝子として転写因子Prop1が発現することが明らかとなった。Prop1の機能を阻害したところEmi細胞の分化は完全に失われた。表皮感覚ニューロンのうち、Bipolar Tail Neurons (BTNs)と名前が付けられたニューロンについて解析を行った。その結果、BTNsはMsx, Neurogenin, POU IV, Atonalといった転写因子ネットワークによってその分化が制御されていることを明らかにした。また、これらの転写因子を介した表皮感覚ニューロンの分化機構は左右相称動物間で広く保存されていた。
2: おおむね順調に進展している
ホヤの脳内に存在する24種類の細胞ほぼ全ての細胞について特異的に発現する転写因子を同定することに成功している。また、同定した転写因子の機能解析も順調に進展しており、既にGABA作動性ニューロン、ドーパミン作動性ニューロン、表皮感覚ニューロンについてはその分化を決定しているマスターコントロール因子の同定に成功している。
引き続き同定した転写因子の機能解析実験を進める。転写因子の機能阻害実験だけでなく、次年度は過剰発現実験も進め、各ニューロンの分化を制御するマスターコントロール因子の同定を行う。また、各ニューロンで特異的に発現する遺伝子のエンハンサー領域の解析も進め、シス側からもニューロンの分化を制御するマスターコントロール因子の同定を進める。
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すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件) 学会発表 (2件) 備考 (1件)
Current Biology
巻: 30 ページ: 1555-1561
10.1016/j.cub.2020.02.003.
http://accafe.jp/Horie_Takeo/index.php