研究課題
本研究の目的のひとつは、出芽酵母の必須遺伝子でハプロ不全性が生じる分子メカニズムを解明することである。ハプロ不全性が生じる要因として、バランス仮説と不十分量仮説の二つが提案されている。バランス仮説が正しいのであれば、遺伝子の発現レベルを増加させても減少させても同じ複合体の機能が欠損するので同じ形態表現型が現れるはずである。一方、不十分量仮説が正しいとすると、発現レベルを増加させた時には形態変化が起きないはずである。ハプロ不全性を示す遺伝子でどちらの仮説が当てはまるのかを、個々の遺伝子の発現レベルを上昇させた時の形態表現型を調べて比較することによって網羅的に調べていくことを計画した。今年度は、まずシャペロニンCCT複合体のサブユニットをコードするCCT2遺伝子を用いて、CCT2遺伝子を高発現させた時に、果たして発現量を減らした時と同じ表現型を示すのかを形態的観点から調べた。遺伝子の高発現のためには、副作用が少なくてbeta-estradiol量依存的に発現誘導できるシステム(McIsaac et al., 2014)を用いた。beta-estradiolを加えていない条件では、CCT2/cct2のヘテロ二倍体と同じように形態異常を示した。beta-estradiolを1 nM 加えたところ、ほぼ野生型二倍体と同じ形態を示し、その後1000 nMまで増やしても形態変化は認められなかった。CCT2のmRNAを測定したところ、beta-estradiolを1 nM加えた時にほぼCCT2/CCT2と同じmRNA量になり、100 nMでは約25倍に増加した。以上の結果から、CCT2遺伝子の場合には、発現レベルを増加させた時には形態変化が起きないことが明らかになり、不十分量仮説が正しいことが示唆された。
2: おおむね順調に進展している
ハプロ不全性を示す遺伝子でバランス仮説と不十分量仮説のどちらの仮説が当てはまるのかを、beta-estradiol量依存的に発現誘導できるシステムを使い、個々の遺伝子の発現レベルを上昇させた時の形態表現型を調べて比較することによって調べることが可能になったため。
本研究の目的は、①出芽酵母の必須遺伝子でハプロ不全性が生じる分子メカニズムの解明、②異なる状況下でハプロ不全性が現れるメカニズムの解明、③ハプロ不全性形態変化を用いた新しい薬剤標的の推定法の開発である。①では、出芽酵母の個々の必須遺伝子がハプロ不全性を示すのは、バランス仮説と不十分量仮説のどちらに当てはまるのかを実験的に検証する。②では、様々な環境下やストレスに晒して表現型を調べることにより、ハプロ不全性が起きやすい条件と起きにくい条件を明らかにする。③では、従来非必須破壊株の形態表現型の類似性をリファレンスに行なっていた薬剤標的の推定を、必須遺伝子ヘテロ破壊株を使って行うことにより、今までより精度の高い標的予想システムを確立する。前年度、①について行った研究を発展させると共に、②と③についても研究をスタートする予定である。
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