研究課題/領域番号 |
19H03214
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
笹川 洋平 国立研究開発法人理化学研究所, 生命機能科学研究センター, 上級研究員 (10404344)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | cDNA変換 / poly-A tagging / 長鎖RNA配列 |
研究実績の概要 |
1細胞以下の細胞内区画や細胞小器官ならび細胞外に放出される膜小胞などの検体に存在する超微量RNA配列の完全長を得る要望は高まっている。そのためには、以下2つのステップが必要である。①RNAから完全長cDNAに変換し、高効率でアダプター配列を付与し増幅可能なcDNAに変換・増幅すること。②一度の長鎖DNAシーケンスで、より多くの分子種を読み取るためのsequence library DNA調整法。特に超微量RNA配列の検出には、感度が最も重要な項目の一つであり、①でのターミナルトランスフェラーゼ依存的アダプター付与反応によるcDNA変換が高効率に進む必要がある。しかし同付与の法則の理解や最適な制御条件が不十分なままのためcDNAの変換効率が低い。上記付与反応には、2種類の方法があり、本研究の様々な解析から感度においてpoly-A tagging法が秀でていたことから、同法をベースにcDNA変換効率の精緻化を遂行し、微量RNA検出の別法の精度向上にも応用可能であった。また、poly-A tagging法の精度を維持したまま簡素化に成功し、同法を改善する条件のスクリーニングが可能になった。並行して、スクリーニング条件を多数作るため、分注ロボットを導入し効率を上げた。スクリーニングでは、ゲノム科学含む分子生物学を使った手法で使う反応効率は、どれも緩衝液が影響するので緩衝液のパネル作りを検討した。適切なパネルは、今後全ての分子生物学反応の精緻化を高速化すると期待される。また②において、library調整法で、長鎖cDNAを連結し、DNA増幅する手法を検討したが、手法により増幅バイアスや損傷などの問題があり、継続して改善を試みている。また長鎖シーケンサーで10%ほどの塩基エラーがあっても、長鎖配列内の検体情報を認識し正確に分けられる解析条件を見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、1細胞以下の細胞内区画や細胞小器官ならび細胞外に放出される膜小胞などの検体に存在する超微量RNAの全長配列を高感度に捉えるために、cDNA変換の精緻化を行っている。精緻化では、スクリーニングの手法を活用するために、変換効率を計測する評価系の構築が重要である。cDNA変換には2種類の方法(template-switchingとpoly-A tagging)がある。これまで、どちらをベースに精緻化を進めるのが、最高の感度にたどり着くか判断するため文献調査、本研究での実験や公開データの再解析を進めた。poly-A taggingの感度への優位性・潜在能力の高さが示されたことから、同法のスクリーニングの優先順位を上げた。一方、同法はtemplate switchingに比べ1工程多いため、新しい評価系が必要になったが、これまでQuartz-Seqシリーズを開発したノウハウを生かし、短期間での確立に成功した。また、poly-A taggingによる別法の高感度化など、応用のデモンストレーションも進んでいる。分注機械を導入し、スクリーニングを高効率化した。またlibrary DNA調整法は、長鎖シーケンサー機種の選択で変わってくる。2021年秋ころに長鎖シーケンサーONTのQ20+ kitがリリースされる予定だ。1塩基あたりの正確性が10倍近く上昇し、最大で100塩基に1エラーの正確性を謳い有望である。そのため長鎖シーケンサーONTの解析機器を導入し、解析に必要な検体バーコードとその振り分け手法も確立した。長鎖シーケンサーが必要とするDNA量と長さを確保するlibrary DNAの前処理にも取り組み、増幅バイアスや損傷などの問題の発見と分子生物学的な開発要素が明らかになった。これら全般を加味して、おおむね想定の範囲内の進捗だと考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
2021年度は、引き続きcDNA変換効率を上昇させる条件のスクリーニングを行い、さらなる感度上昇を目指す。スクリーニング対象となる緩衝液などの種類や成分とその組み合わせパターンは、スクリーニングの探索空間の網羅性に関わるため、サーベイの規模をあげ引き続き文献などからの拡充を図る。長鎖RNAから完全長cDNA配列を得るためには、逆転写反応の高いcDNA伸張能力が欠かせない。逆転写酵素の種類が増えており、高い伸張能力のある酵素の選定を引き続き行う。poly-A tagging法は逆転写酵素の種類に依存しないので、簡単に置き換えられると期待される。またトランスクリプトームには、解析に多くのRNA分子数も必要とし、多数の検体から読み取るにはさらにRNA分子数が必要となる。長鎖DNAシーケンサーは、短鎖DNAシーケンサーに比べて、コストあたりの解析できる分子数少ない。一方で、読み取る配列長に制限が少なく、1000倍程度以上の配列長を読むことができる。cDNA同士で連結すれば、一度に解析できる分子数を増やすことができ、解析に多くの分子を必要とするトランスクリプトームにはこのような連結技術が欠かせない。長鎖DNAシーケンサーは、数百ng-数ugの増幅cDNAが必要となり、cDNA連結後の長鎖DNA増幅も必要だ。一方で、制限のない高効率な連結やその後増幅反応に障壁があるので、それらの問題を解決する。検証には、長鎖DNA長検出装置や長鎖DNAシーケンサーを使用する。
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