研究実績の概要 |
昨年度は、下記の当初の計画項目について研究を進めた。 ①ゲノム縮小による発現周期のずれの検証 数種のゲノム縮小株と野生株の遺伝子発現量を測定した。先行研究で確立された手法を用いて、培養、集菌、RNA精製など一連の実験操作を行い、グラム陰性菌用RNAseqを行った。得られた発現データにフーリエ変換を適用した周期性解析を試みた。ゲノム縮小によって遺伝子発現の周期(波長)が野生型の発現周期からずれるのかを確認したところ、想定外にある決まった発現周期が見出された。そのため、パブリックデータベースGEOから、増殖プロファイル付きの大腸菌トランスクリプトームデータ(計213個)を集め、遺伝子発現のゲノム周期性解析を行った。これは当初の研究計画にない研究内容であったが、遺伝子発現のグローバルパラメーラーを新規に発見し、当初の想定と異なる増殖速度と発現周期の相関関係を導いた(Nagai et al, in preparation)。 ②増殖速度の回復に伴う発現周期の回復 ゲノム縮小株の増殖速度の回復に伴って発現周期が回復するのかを検証するために、ゲノム縮小大腸菌に対する実験進化を行った。先行研究で確立された植え継ぎ方法を用いて、野生株と数種類のゲノム縮小大腸菌株に対し、それぞれ一系列で約1000世代の植え継ぎ培養を行った。その結果、予想通りにゲノム縮小株の増殖速度が回復され、最もゲノムの小さい縮小株が最も上昇率が高いことが検証された。また、ゲノム縮小と増殖速度に関する情報まとめ(Kurokawa, Ying, 2019)や大腸菌増殖の解析手法に関する多方面の検討を行った(Ashino et al, 2019; Cao et al, 2020)。これらの成果は2020年度以降の成果まとめに大いに寄与する。
|