研究課題/領域番号 |
19H03216
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
小林 徹也 東京大学, 生産技術研究所, 准教授 (90513359)
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研究分担者 |
若本 祐一 東京大学, 大学院総合文化研究科, 准教授 (30517884)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 自己複製 / 細胞分裂 / 細胞系譜 / 定量生物学 / 理論生物学 |
研究実績の概要 |
【1. 細胞の潜在的複製能の推定と関連する物理化学的状態との関連の探索】 前年度に開発した系譜EMアルゴリズムの改良と並行して、新たに深層学習を援用した細胞の分裂動態推定の方法の検討を進めた。データが系譜よりも多数手に入る個々の細胞の分裂動態を計測したデータに着目し、その分裂待ち時間などを推定する手法を構築した。予備的な解析から公開されているデータでも十分な学習が可能であることが確認できた。しかし分裂待ち時間を対象にした場合、分裂の予測は系譜EMアルゴリズムの時と同様に難しいこともわかった。そこで細胞のサイズなど、過去の研究で予測可能性が検証されているものに対象を変更し、大腸菌や酵母など異なる生物種のデータを用いてさらなる解析と検討を進めた。 リボソームの大小サブユニット量を定量可能な大腸菌細胞株に対し、抗生物質クロラムフェニコール(Cp)を投与する1細胞計測を行った。Cp投与に伴い、小サブユニットに対する大サブユニットの量比が増加するが、長時間のCp投与に適応し再増殖する細胞内ではそのサブユニット量比が回復することを明らかにした。また、投与初期の量比の崩壊速度が大きいと適応効率が下がるという予備的結果を得た。 【2. 自己複製ネットワークモデルからの複製能のゆらぎと継承の統計法則の解明】 Sharmaのモデルおよび、2019年度などに新たに発表された論文などを参考に、複数の自己複製サイクルがリンクし相互に干渉するモデルの構築を行った。このモデルにより複数の増殖則を一つのモデルで統一的に説明できることも確認した。しかし類似のモデルが別グループにより本年度発表され、また増殖則や複製リソース配分に着目した実験・理論研究も多方面から公開された。 一方で増殖則にこだわらず、反応構造論の観点から自己複製に必要なモチーフを考えるより一般的な理論の構築も行い、独自の理論を進展させることもできた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
細胞増殖動態解析手法の改良、増殖とリボソーム動態の1細胞レベル解析など順調に研究が進んでいる。 理論面については当初の方向性では他グループとの競合することになったが、既存の流れとは異なる新たな理論展開の方向を見いだすことができた。総合的に考えて研究は順調に進んでいると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
前年度・本年度構築した細胞増殖動態のデータ解析手法を、分裂時間や細胞サイズだけではなくよりマルチモーダルな情報を取り込めるよう更に発展させる。 1細胞計測の実験結果をもとに、Scott-Hwa則などの現象論的法則の1細胞レベルでの検証を進める。 理論面では、データとの比較ではこれまでの増殖則を中心にしたモデルをベースにしつつ、新規理論の構築では今年度見出した自己複製反応構造の理論に重点をシフトして研究をすすめる。
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