【1. 細胞の潜在的複製能(隠れ状態)の推定と関連する物理化学的状態との関連の探索】 前年度構築したNNと点過程を組み合わせ細胞サイズや分裂待ち時間をデータから推定する手法を、若本グループのデータなどで検討し、細胞サイズの依存則が推定できることを示し論文で発表をした。一方分裂時間などではGFP発現を考慮しても明確な法則がデータからは見いだせず、潜在複製能は細胞状態とも複雑な依存性があることが示唆された。実験では、リボソームタンパク質RplSおよびRpsBを蛍光タンパク質で標識した大腸菌株を構築し、これら2つのタンパク量は、集団成長率に対しほぼ線形で増加することを確認した。これにより翻訳に関わる因子の総量に対して成立するScott-Hwa則が、これらの各タンパク質種のレベルでも成り立つことを確認した。 【2. 自己複製ネットワークモデルからの複製能のゆらぎと継承の統計法則の解明】 Sharmaのモデルを更に抽象化した自己複製モチーフモデルの解析を進め、熱力学の観点からこのモデルを扱いうることが明らかになった。特に定常自己複製状態では、熱力学的要請から細胞内分子の量比にある種の相互依存性が現れることもわかってきた。 【3. 統合と検証、展開】 【1】から複製能は細胞の多次元的な依存関係で決まることが示唆された。関連して、様々な環境条件で取得された絶対定量プロテオームデータを解析することで、お互いに量比を保ちながらその量を成長率に対して線形に増加させるタンパク質群が存在することも明らかになった。このタンパク群はリボソームだけでなく転写や代謝などにも関わる因子を多く含み、成長率に対する線形関係が幅広い細胞内プロセスに及ぶことを明らかにした。このような量比関係は【2】の理論からも示唆され、これらの関係を明らかにすることが今後の課題として明確になった。
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