研究課題
ゲノムDNAの状態変化はがんをはじめとする疾患の原因となるため、一塩基変異やDNAコピー数の解析が盛んに行われている。一方で、これらの解析は細胞を破砕することでDNAを得るために、経時的な変化を捉えることは困難である。そのため、本研究の目的は、細胞を破砕することなく、培養細胞のゲノム状態を解析する方法を開発し、経時的なゲノム異常やエピゲノム変化を捉えるシステムを提供することである。まず、4種類のヒトiPS細胞株、5種類のがん細胞株に対して、従来法である細胞内ゲノムDNAを用いてSNPアレイを用いたDNAコピー数解析を行った。そして、新しいアプローチとして培養上清からDNA(cell-free DNA, cfDNA)を回収し、ゲノムワイドに並列シークエンサーで解析することで、細胞を破砕せずにDNAコピー数を算出する試みを行った。スループットを上げることとコストを軽減するために、平均シークエンスリード数を0.1で行った。この方法でDNAコピー数を推算した結果、従来法と非常に高い一致がみられることを確認した。さらに、ヒトiPS細胞において、継代でDNAコピー数異常が増大するモデル細胞を用いて、モザイシズムの変化を捉えられることも確認した。このことから、細胞上清から得られたcfDNAでDNAコピー数を算出する方法が実用的であると判断し、培養上清より効率よくDNAを回収するために、複数の回収キットを比較し、得られたDNAの安定性を異なった温度や保存期間で評価を行うことで、再現良く実験を行う環境を整えた。
2: おおむね順調に進展している
本年度は、本研究課題が開発する培養上清より得られるcfDNAを解析する方法が、従来法である細胞内ゲノムDNAをSNPアレイで解析する手法と同等の結果を得られるか検討を行った。そして、従来法と同等の結果が得られたことより、細胞を破砕せずに培養細胞のゲノムDNAのコピー数を算出する方法の有用性が示された。特に、実験を行ったすべての細胞株に特徴的なDNAコピー数を捉えることが可能であったことは予想を上回る結果であった。一方で、従来法で検出が不可能な領域に対する評価が行えないことが課題として残されている。また、DNAコピー数判定において、現在は目視による判定を行っているが、適切な数理アルゴリズムを開発し、自律的にコピー数を算出する手法が必要であることが示された。これらの状況は、研究を立案する段階で計画された進捗とおおむね同等であると判断できる。
今回の一連の解析で明らかとなった自律的なDNAコピー数判定を行うための数理アルゴリズムの開発は必要不可欠である。この開発および検証には時間がかかることが予想されるため、すぐに着手し、2年後の完成を目指す。また、実験において、本年度はサンプルの取り扱い方法を徹底的に比較することで最適化したが、シークエンシングに関しては通常の手法を行ったのみであった。シングルセルレベルでの評価も含めて、モザイシズムを鋭敏に捉える手法の開発に着手する。
すべて 2020 2019
すべて 雑誌論文 (5件) (うち査読あり 1件) 学会発表 (3件) (うち招待講演 1件) 図書 (1件)
Cell Reports
巻: 31 ページ: 107476
10.1016/j.celrep.2020.03.040
遺伝子医学
巻: 9 ページ: 116-121
実験医学別冊「シングルセルゲノミクス」
巻: 37 ページ: 22-28
巻: 37 ページ: 68-73
巻: 37 ページ: 145-148