研究課題/領域番号 |
19H03219
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
上原 亮太 北海道大学, 先端生命科学研究院, 准教授 (20580020)
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研究分担者 |
塚田 祐基 名古屋大学, 理学研究科, 助教 (80580000)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 染色体倍加 / 中心体 |
研究実績の概要 |
本研究ではヒト体細胞の染色体倍加に伴う中心体構造・機能変化の原理と意義の解明を目的とする。2019年度オーキシンデグロンシステムを用いた組換え染色体倍加細胞株で、オーキシン添加により中心体足場因子の発現量を半減させる実験で、オーキシン添加時(標的因子が半減する条件で)顕著な分裂異常が生じることを見出した。2020年度はこの分裂異常の発生原因を更に調べる目的で、ライブイメージングや分裂阻害剤感受性評価実験などを展開した。検証過程で、オーキシン添加時の上記細胞株における分裂異常の頻度や程度に、顕著な細胞密度依存性があり、低密度培養では非常に高い分裂異常が生じるのに対し、高密度培養時には分裂異常が起こらないことを見出した。この際、どの細胞密度条件においても、オーキシンデグロンの標的遺伝子の発現量自体は等しく半減し、染色体倍加依存的な中心体増大も抑制されたことから、2019年度に見出した細胞分裂異常が標的遺伝子量の変化そのものではなく、低密度培養下でのオーキシン添加による、オーキシンの過剰細胞内集積により引き起こされている可能性が示唆された。野生型細胞株では同様の低密度培養下のオーキシン添加によっても分裂異常は生じなかったことから、上記の現象は、使用した遺伝子組換え株特有の遺伝的背景で発生する非特異的反応であることが考えられる(本現象については別途技術論として論文発表を計画している)。この結果を受け、全実験を上記非特異反応が生じない新条件で再実施したところ、染色体倍加細胞で中心体増大を抑制した場合に、それ自体では分裂異常は生じないことが分かった。一方、中心体増大を抑制した染色体倍加細胞では、コントロールに比して分裂阻害剤に対する感受性の増加が見られた。このことから、染色体倍加に伴う中心体増大は、染色体倍加細胞の分裂制御の堅牢性に寄与するものの必須の役割は果たさないことが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
上述のように、使用する実験系の予期せぬ非特異的反応性が明らかになったことで、その検証と、非特異反応を排除した新しい条件での全実験の再実施が必要となり、当初計画より多くの時間を要した。一方、上記の技術的問題の検証は速やかに実施することができ、これにより堅牢な条件で本研究課題の目的の一つである「染色体倍加細胞における中心体増大の生理的意義」に関する結論を得るに至った。すでに「中心体増大は染色体倍加細胞の分裂制御に必須の寄与は果たしていない」という新しい結論をもとに、実験計画の見直しを図り、中心体増大が染色体倍加細胞の安定性においてもたらすリスク面に焦点を当てた検証実験に着手しはじめている。このことから、上述の問題によるプロジェクトの遅れは最小限の規模に留めることができ、次年度の展開に向けた土台を築くことに成功していると自己評価する。
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今後の研究の推進方策 |
2020年度の研究結果から、染色体倍加細胞における中心体増大は、染色体倍加細胞の分裂制御を支える適応的な現象ではないことが示唆された。この成果をもとに、染色体倍加の過程で中心体増大が成立する過程の追跡と、増大した中心体の性質のより詳細な解析を実施し、中心体増大(中心体への分裂制御因子の余剰集積)現象が染色体倍加細胞における中心体機能制御の堅牢性に及ぼす問題の検証を展開する。とくに、近年、中心体における分裂制御因子の集積は、それを加速させる正の制御に加えて、その抑制を司る負の制御の存在が示唆されている。染色体倍加に付随した中心体タンパク質集積の制御バランスの変調の分子的実態を明らかにし、それが染色体倍加細胞の増殖安定性や細胞形質に及ぼす生理・病理的意義を理解することを目指す。
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