研究課題/領域番号 |
19H03222
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
岡本 浩二 大阪大学, 生命機能研究科, 准教授 (40455217)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | ミトコンドリア / オートファジー / 小胞体関連分解 / 小胞体膜タンパク質挿入 / ユビキチン化 |
研究実績の概要 |
余剰または不良ミトコンドリアの丸ごと分別・除去は生物種を超えて保存された普遍的な機構であり、オートファジーの仕組みを利用していることから「マイトファジー」と呼ばれる。マイトファジーはミトコンドリアの量と品質の管理に貢献しており、細胞のエネルギー需給の適切なバランスと恒常性を維持する重要な役割を担っているが、その基本原理と生理機能は未だ多くの謎に包まれている。本研究では出芽酵母をモデル生物に用いて、マイトファジーの素過程を分子レベルで解明するとともに、その普遍性と多様性を理解することを目的とする。これまでの研究で、(1)小胞体関連分解(ERAD)を介してマイトファジーに特異的かつ必須なタンパク質Atg32がユビキチン化されること、(2)ERAD欠損細胞ではAtg32のタンパク質レベルが上昇し、ミトコンドリアだけでなく小胞体への局在も見られること、(3)ERAD複合体とAtg32は相互作用することを見出した。これらの知見は、Atg32の一部は小胞体へ運ばれ、小胞体膜上でユビキチン化され、プロテアソーム依存的に分解されることで、Atg32のタンパク質レベルおよびマイトファジーが負に制御されることを示唆している。
本年度は、Atg32の小胞体局在に関与する因子について検証した。その結果、小胞体に局在するタンパク質の膜挿入を促進するタンパク質複合体Get1/2の欠損細胞では、Atg32の小胞体局在がほぼ消失することがわかった。一方、Get1/2欠損細胞ではマイトファジーが強く抑制されるという、予想外の結果も得られた。これらのデータは、小胞体膜タンパク質挿入経路がAtg32の局在だけでなく、マイトファジーの促進にも寄与する可能性を提起している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでの解析から、小胞体に局在する膜タンパク質のうち、C末端付近に膜貫通ドメインを一つ持つテイルアンカー(TA)タンパク質の小胞体膜挿入を促進するタンパク質複合体Get1/2の欠損により、(1)マイトファジーが強く抑制されること、(2)Atg32のリン酸化が減少すること、(3)マイトファジーを負に制御するタンパク質ホスファターゼPpg1との二重欠損でマイトファジーが回復することがわかった。Ppg1は、小胞体のTAタンパク質Far9を含むFAR複合体と相互作用していることが報告されている、以上の知見から、Get1/2の欠損株ではPpg1-FAR複合体が小胞体に繋留されず、Atg32の脱リン酸化を亢進させ、マイトファジーの低下を引き起こしていると考えられる。
他のグループによる先行研究で、新規に合成された小胞体TAタンパク質は可溶性ATP加水分解酵素Get3を介して小胞体膜のGet1/2へと運ばれた後、Get1/2によって膜挿入されることがわかっている。この小胞体膜タンパク質挿入(GET)経路は酵母からヒトまで保存されており、細胞の恒常性維持に重要である。研究代表者のグループは最近、Get3欠損細胞ではマイトファジーはわずかな影響しか受けないことを見出しており、Get1/2複合体がマイトファジーの促進に特異的に寄与していることを明らかにした。
このように、Atg32が駆動するマイトファジーの制御に寄与する細胞内経路として、ERADだけでなくGETを新規に同定し、GETがERADとは独立してマイトファジーを促進するという新たな方向性を得られたという点で、本研究計画はおおむね順調に進展していると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
過去の研究により、GET経路の破綻が小胞体TAタンパク質のミトコンドリア標的化を引き起こすことが知られている。Atg32の脱リン酸化を促進するPpg1-FAR複合体の構成因子Far9は小胞体TAタンパク質であり、Get1/2欠損で小胞体へアンカーされず、ミトコンドリア外膜へ挿入される可能性も考えられる。すなわち、Get1/2はFar9を含むPpg1-FAR複合体の小胞体への繋留を促進し、Atg32の脱リン酸化を抑制することで、マイトファジーの進行に寄与していると想定できる。一方、Atg32は、選択的オートファジー経路の足場タンパク質Atg11と相互作用することで、オートファジー関連タンパク質群をミトコンドリアにリクルートし、ミトコンドリア隔離を駆動する。Atg32のリン酸化は、このAtg32-Atg11相互作用を安定化するため、マイトファジーを正に制御するポイントとなりうる。
そこで今後は、(1) Get1/2とPpg1の二重欠損により、Atg32のリン酸化とAtg32-Atg11相互作用が回復しているかどうか確認する。(2) Get1/2とFar9の二重欠損株を作成し、Get1/2とPpg1の二重欠損で得られる表現型と同様であるかどうか調べる。(3) Ppg1-FAR複合体にGFPを付加し、野生株およびGet1/2欠損株における局在を解析する。(4) Ppg1-FAR複合体をGet1/2非依存的に小胞体へ繋留させ、Get1/2欠損株の表現型が回復するかどうか調べる。
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