研究課題/領域番号 |
19H03223
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研究機関 | 奈良先端科学技術大学院大学 |
研究代表者 |
稲垣 直之 奈良先端科学技術大学院大学, 先端科学技術研究科, 教授 (20223216)
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研究分担者 |
馬場 健太郎 奈良先端科学技術大学院大学, 先端科学技術研究科, 助教 (80836693)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 細胞移動 / 極性形成 / アクチン波 / シューティン / フィードバックループ |
研究実績の概要 |
本研究では、「アクチン線維がいかにして細胞内で局所的に自己組織化をして細胞移動を引き起こすことができるのか」を、我々の研究グループがこれまでに明らかにした「アクチン波」の移動の分子メカニズムとその特徴的な挙動から解明することを目指す。具体的には、「アクチン波による細胞のかたちの制御」と「細胞のかたちによるアクチン波の挙動の制御」からなるポジティヴフィードバックループの検証を行うことで、アクチン線維の自己組織化と細胞移動の仕組みに迫る。 前年度は、培養基質上に三角形のラミニンのマイクロパターンを施し、そこにU251グリオーマ細胞を培養することで、U251細胞の形態を三角形に変形させることに成功した。また、アクチン波の構成成分であるアクチン線維とシューティンの局在を調べたところ、アクチン線維とシューティンが三角形の頂点にダイナミックに濃縮することがわかった。以上の研究結果は、「細胞のかたちによるアクチン波の挙動の制御」を示唆する重要な知見である。 本年度は、HaloTag-actinと全反射顕微鏡を組み合わせてアクチン分子の1分子ライブイメージング(Katsuno et al, Cell Rep, 2015)を行い、アクチン波内のアクチン線維が重合と脱重合を繰り返しながら重合端を先頭として細胞内を移動することを明らかにした。また、シューティンもアクチン線維と結合・解離を繰り返しながら移動することが解った。さらに、アクチン波の移動を推進する力の計測を牽引力顕微鏡によって検出し、シューティンをノックアウトしたU251グリオーマの細胞の作成に成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、アクチン波の1分子ライブイメージングを行い、アクチン波内のアクチン線維が重合と脱重合を繰り返しながら重合端を先頭として細胞内を移動することを明らかにした。また、シューティンもアクチン線維と結合・解離を繰り返しながら移動することが解った。さらに、アクチン波の移動を推進する力の計測を牽引力顕微鏡によって検出し、シューティンをノックアウトしたU251グリオーマの細胞に成功した。一方、当初予定していたシューティンをノックアウトしたU251グリオーマの細胞を用いた牽引力の計測は、新型コロナウイルスのため海外からの研究協力者の渡日が困難となり、次年度に繰り越すこととなった。以上の得られた研究結果は、本研究で行う「アクチン線維がいかにして細胞内で局所的に自己組織化をして細胞移動を引き起こすことができるのか」の解明に向けた重要なデータである。従って、一部研究の遅れは見られるものの、本研究は着実に目標に向かって進んでいると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
本年度までの研究から、アクチン波がU251細胞の三角形の辺(細胞端)に沿って移動をし、頂点(突き出した部位)に向かってダイナミックに濃縮することがわかった。また、アクチン分子の1分子ライブイメージングを行い、アクチン波内のアクチン線維が重合と脱重合を繰り返しながら重合端を先頭として細胞内を移動することを明らかにした。また、シューティンもアクチン線維と結合・解離を繰り返しながら移動することが解った。さらに、アクチン波の移動を推進する力の計測を牽引力顕微鏡によって検出し、シューティンをノックアウトしたU251グリオーマの細胞に成功した。以上の研究結果は、本研究で行う「アクチン線維がいかにして細胞内で局所的に自己組織化をして細胞移動を引き起こすことができるのか」の解明に向けた重要なデータである。 今後の研究では、シューティンノックアウトグリオーマ細胞を用いて、細胞端に沿って移動するアクチン波の移動速度を解析する。また、シューティンノックアウトグリオーマ細胞が生み出す牽引力を計測し、アクチン線維とグリオーマ細胞端に生じる角度とアクチン波の細胞端に沿った移動速度との関係を明らかにする。さらに、グリオーマ細胞の頂点(突き出した部位)の角度とアクチンの頂点への濃縮との関係を解析し数式化することにより、アクチン波による細胞の極性化と細胞移動の開始を数理モデル化する。 以上の研究を通じて、「細胞のかたちによるアクチン波の挙動の制御」を、アクチン線維とシューティンの細胞内動態を視点として明らかにする。そしてさらに、「アクチン波による細胞のかたちの制御」と「細胞のかたちによるアクチン波の挙動の制御」からなるポジティヴフィードバックループの検証を行うことで、アクチン線維の自己組織化と細胞移動の仕組みに迫る。
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