研究課題/領域番号 |
19H03226
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
久下 理 九州大学, 理学研究院, 教授 (30177977)
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研究分担者 |
宮田 暖 九州大学, 理学研究院, 助教 (10529093)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | リン脂質 / 細胞内輸送 / 代謝調節 / ミトコンドリア / 小胞体 |
研究実績の概要 |
研究項目(1)ミトコンドリアの形成に関与するリン脂質の輸送・代謝機構の解明:我々は、ミトコンドリアでのホスファチジルエタノールアミン(PE)、あるいはカルジオリピン(CL)生合成に関与する、酵母のリン脂質関連遺伝子をこれまでに多数同定している。昨年度は、それら遺伝子の一つであるICE2のタンパク質産物が、細胞内のホスファチジン酸(PA)とジアシルグリセロールの量の変動を介して、ホスファチジルセリン(PS)脱炭酸酵素(Psd1)(ミトコンドリアと小胞体の両者に局在しPEを合成する)の小胞体での安定化と活性調節に関与していることを明らかにした。2021年度の研究では、Psd1がPAに特異的に結合することを見出し、Psd1とPAの物理的相互作用により、Psd1の小胞体への局在と活性が調節されていることが示唆された。 哺乳動物細胞のPS合成酵素1は、ミトコンドリアにおけるPE合成の基質となるPSを生合成する酵素であるが、この酵素がそのN末端とC末端を小胞体の細胞質側に露出する10回膜貫通タンパク質であることを明らかにした。
研究項目(2)ミトコンドリアリン脂質の環境変化時特異的機能の解明:我々は、出芽酵母のミトコンドリア膜間腔タンパク質Ups2が、ダイオキシックシフトと呼ばれる環境変化時特異的に発現誘導され、PSのミトコンドリア内膜への輸送を活性化し、PS脱炭酸によるPEの合成を促進することを明らかにしていた。さらに、昨年度の研究により、このUps2の活性化によるPEの増加が細胞周期の制御に関与することが示唆された。2021度の研究では、このPEの増加がAMPキナーゼホモログであるSnf1の活性を負に制御しており、その制御が破綻するとミトコンドリアにおけるATP合成の活性化や細胞周期異常が起こることを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究概要の実績に記載してあるように、i)Psd1とPAの物理的相互作用により、Psd1の小胞体への局在とその安定化・活性が調節されていること、ii)哺乳動物細胞のPS合成酵素1がそのN末端とC末端を小胞体の細胞質側に露出する10回膜貫通タンパク質であること、iii)ミトコンドリアPEの増加がAMPキナーゼホモログであるSnf1の活性を負に制御しており、その制御が破綻するとミトコンドリアにおけるATP合成の活性化や細胞周期異常が起こることを明らかにした。これらを学会や論文雑誌で発表することができ、研究は順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
研究項目(1)ミトコンドリアの形成に関与するリン脂質の輸送・代謝機構の解明 我々は、これまでの研究により、小胞体とミトコンドリアの両者に局在する、酵母のホスファチジルセリン(PS)脱炭酸酵素1の局在と活性が、細胞内のホスファチジン酸(PA)とジアシルグリセロールの量の変動を介して調節されており、この調節にPsd1とPAの物理的相互作用が重要であることを明らかにした。今後は、これらの知見を基に、哺乳動物のPS脱炭酸酵素の活性調節機構を明らかにしたい。
研究項目(2)ミトコンドリアリン脂質の環境変化時特異的機能の解明 我々は、これまでの研究により、生物種間で高度に保存された出芽酵母のミトコンドリア膜間腔タンパク質であるUps2が、ダイオキシックシフトと呼ばれる環境変化時特異的に発現誘導され、PSのミトコンドリア内膜への輸送を活性化し、PS脱炭酸によるPEの合成を促進することを明らかにしていた。さらに本年度、このUps2に依存したPE合成が、AMPキナーゼホモログであるSnf1の活性を負に制御しており、その制御が破綻するとミトコンドリアにおけるATP合成の活性化や細胞周期異常が起こることを明らかにした。そこで今後は、ミトコンドリアのPEが、どのような分子機構でSnfの活性を負に制御するのかを明らかにしたい。またこれまでに、UPS2のヒトホモログSLMO2の損傷が、ある種のがん細胞特異的に生育損傷を引き起こすことを明らかにしており、今後は、SLMO2を抗がん剤の標的とする観点からも、その機能、及びその損傷による病態を詳細に解析する。
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