研究項目(1)ミトコンドリアの形成に関与するリン脂質の輸送・代謝機構の解明 我々は、ミトコンドリアでのホスファチジルエタノールアミン(PE)、あるいはカルジオリピン(CL)生合成に関与する、酵母のリン脂質関連遺伝子をこれまでに多数同定している。昨年度までに、それら遺伝子の一つであるICE2のタンパク質産物が、細胞内のホスファチジン酸(PA)とジアシルグリセロールの量の制御を介して、ホスファチジルセリン(PS)脱炭酸酵素(Psd1)(ミトコンドリアと小胞体の両者に局在しPEを合成する)の小胞体での安定化と活性調節に関与していることを明らかにした。2022年度の研究では、小胞体とミトコンドリアのPsd1の正常量維持に、E3リガーゼHrd1を介した小胞体関連分解、シャペロンDjp1のミトコンドリアへのタンパク質輸送促進、及び Opi1 転写抑制因子も関与すること等を明らかにした。 研究項目(2)ミトコンドリアリン脂質の環境変化時特異的機能の解明 我々は、出芽酵母のミトコンドリア膜間腔タンパク質Ups2が、ダイオキシックシフトと呼ばれる環境変化時特異的に発現誘導され、PSのミトコンドリア内膜への輸送を活性化し、PS脱炭酸によるPEの合成を促進することを明らかにしていた。さらに、昨年度までの研究により、このUps2の活性化によるPEの増加が細胞周期の制御に関与していること、及びこのPEの増加がAMPキナーゼホモログであるSnf1の活性を負に制御しており、その制御が破綻するとミトコンドリアにおけるATP合成の活性化や細胞周期異常が起こることを明らかにしていた。2022年度の研究では、脂質-タンパク質オーバーレイアッセイにより、Snf1とPEが結合することを見出し、ミトコンドリアPEが、Snf1との物理的相互作用を介してSnf1の活性を制御していること等を明らかにした。
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