研究課題/領域番号 |
19H03230
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研究機関 | 国立研究開発法人産業技術総合研究所 |
研究代表者 |
小椋 俊彦 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 生命工学領域, 上級主任研究員 (70371028)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 培養細胞 / 細胞内小器官 / 走査電子誘電率顕微鏡 / 窒化シリコン薄膜 |
研究実績の概要 |
本年度は、研究当初より開発を進めてきた、高精度・低ノイズの初段アンプを搭載した誘電率観察ユニットを用いて、細胞やタンパク質試料等の溶液中での直接観察を行ってきた。走査電子誘電率顕微鏡による細胞の観察では、マウス乳がん細胞や口腔内上皮細胞、骨芽細胞、メラノサイト等の各種細胞の溶液中での観察を行った。これにより、細胞内部の内膜構造や小胞体、ゴルジ体等の構造をより詳細に観察する事が出来た。さらに、タンパク質の一種であるIgG抗体の直接観察を行い、高濃度のIgG抗体溶液では溶液中の組成の違いにより特殊なネットワーク構造を形成する事が確認された。また、金属を蓄積する特殊な藻の観察では、細胞外壁部に金属が集積する事が見いだされた。さらに、こうした集積は、細胞外溶液の濃度や金属種類の違いによっても変化していた。 3次元の構造解析のためには、複数の傾斜画像の取得が必要とされる。誘電率顕微鏡において傾斜画像を取得するためには、複数の電極を設けてそれぞれの位置で信号を検出し可視化する必要がある。こうした目的のために、一次元アレイ電極を用いた傾斜画像取得システムの開発を進め、8ポイントの一次元アレイ電極の観察システムを開発した。このシステムを用いて、テスト試料として1μm径のポリスチレンビーズの観察を行い、それぞれの電極の位置に従った傾斜画像の観察を可能とした。さらに、この傾斜画像からSimulated Annealingアルゴリズムを用いた3次元再構築システムの開発を行った。これに加えて、誘電率観察時に正弦波信号を信号端子に加えて、電子線走査による電流信号の変化を検出し画像化する事で、誘電率だけでなくインピーダンス値の画像も観察できた。このシステムを用いて、ナノレベルの酸化金属が混入した溶液の観察を行い、インピーダンス値の可視化に成功した。こうした成果は、国際紙に発表する事が出来た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究提案では、高機能な走査電子誘電率顕微鏡の開発を進め、これを細胞内小器官の解析に用いる事を目的としている。現在まで、高分解能かつ高コントラスト観察が可能な走査電子誘電率顕微鏡を開発しており、本年度はこれを用いて様々な細胞の細胞内小器官や周辺構造を直接観察に成功した。本成果は、当初の目標の細胞内小器官の解明に沿うもので、おおむね順調に進展しているものと考える。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、昨年度に引き続きマウス乳がん細胞や骨芽細胞、上皮細胞、メラニン色素細胞等の培養細胞を用いて、走査電子誘電率顕微鏡により細胞内小器官の直接観察を行う。これに加えて、同じ撮像箇所に対して、3次元観察が可能な光学顕微鏡を用いて観察を行う。こうした、誘電率顕微鏡による高分解能構造情報と光学顕微鏡の3次元構造情報を融合することで、3次元的な構造変化をより詳細に分析し、細胞内小器官の生理的機能や働きの解明に繋げる。今後の計画では、これらの3次元構造の同時解析アルゴリズムの開発を行う。これには、昨年度から引き続き開発を進めている、非線形最適化法の1種であるSimulated Annealingアルゴリズムや多層の階層型ニューラルネットワークによるディープラーニング法を用いる。この開発用の言語としては、昨年度と同様に数値計算処理言語であるMatlabとPythonを併用する。MatlabやPythonにより開発したアルゴリズムは、オブジェクト化し、観察画像のデータ処理の自動化をさらに進める。これと並行して、走査電子誘電率顕微鏡のさらなる分解能の向上を行うため、観察した画像の超解像補正アルゴリズムを新たに開発し、取得画像以上の高分解能化を目指す。 以上の誘電率観察システムの処理アルゴリズムの開発を進めながら、マウス乳がん細胞と上皮細胞の直接観察実験を行う。解析を行う細胞内小器官としては、微小管やリソソーム、細胞内小胞、ミトコンドリア等を目標とする。これらの細胞内小器官は、細胞内に広く分布しており、3次元構造解析や変化の解析において、観察や分析が容易であると予想される。これに加えて、紫外線を照射した際の細胞内小器官の変化等も解析し、細胞内小器官の包括的な機能の解明に繋げる予定である。
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