研究課題
本研究では、エネルギー代謝が雌の胎仔生殖細胞の分化を制御するしくみを解明することを目的としている。2019年度は、ピルビン酸代謝の役割について研究を進めた。ミトコンドリアへのピルビン酸取込の阻害剤を、胎仔卵巣の器官培養系に加えると、卵胞分化が抑制されることから、ピルビン酸の代謝が卵胞分化に重要であると考えられた。ピルビン酸の下流の代謝産物には、ヒストンアセチル化に関与するアセチル(ac)-CoA、ヒストンおよびDNAの脱メチル化に必要なα-ケトグルタール酸(KG)があるので、阻害剤のヒストン修飾に対する影響を調べた結果、阻害剤存在下で培養した生殖細胞では、アセチル化ヒストンH3ac, H4acは増加するが、H3K9me3は変化しないことがわかった。阻害剤により、ミトコンドリア外にピルビン酸が蓄積し、それが核内でac-CoAに変換され、ヒストンアセチル化を促進している可能性が考えられた。またトランスクリプトーム解析から、阻害剤によりタンパク質合成系に関与する遺伝子の発現上昇が見られたが、タンパク質合成活性を調べたところ、阻害剤により逆に低下していることがわかり、タンパク質合成系への関与は薄いと考えられた。一方、遺伝子発現解析から、アクチビン受容体を抑制するフォリスタチンの発現が阻害剤により低下することがわかった。アクチビンは阻害剤と同様に、卵胞分化を抑制することが報告されているので、ピルビン酸代謝がアクチビンシグナルを抑制している可能性が考えられた。また阻害剤の標的となるピルビン酸輸送体MPCのin vivoでの機能を確認するために、生殖細胞特異的な条件的ノックアウトマウスの作成を進め、MPC-floxマウスと、生殖細胞で特異的に発現するTNAP-CreおよびVasa-Creマウスとの交配を行っている。
2: おおむね順調に進展している
2020年度は、胎仔卵巣内の生殖細胞分化におけるピルビン酸代謝の役割についての研究を中心に進め、ピルビン酸のミトコンドリアへの取り込みを阻害すると、ヒストンのアセチル化が上昇すること、遺伝子発現解析からアクチビン経路の抑制がピルビン酸代謝の下流にある可能性を示唆する結果などを得た。これらの結果は、胎仔生殖細胞の卵母細胞への分化がピルビン酸代謝により制御されるしくみの重要な足がかりになることが期待でき、研究目的に照らして、概ね計画通りの研究の進捗があったと判断できる。
今後は2020年度の研究により示唆された結果に基づき、ヒストンアセチル化の関与について標的となる遺伝子をChIP-seqにより探ること、アクチビン経路の関与をSmadなどのシグナル分子の活性化を調べること、MPCノックアウトマウスの解析を進める。また胎仔生殖細胞での高転写活性のしくみと、胎仔生殖細胞分化における意義に関する研究を、関連代謝経路などの阻害剤を、胎仔生殖巣の器官培養系に添加する実験などにより進める。
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