研究課題
本研究ではエネルギー代謝経路の、雌の卵母細胞の発達における役割を解明することを目的としている。そしてミトコンドリアへのピルビン酸取込に働くMPCタンパク質の特異的阻害剤であるUK5099をマウス胎仔卵巣の器官培養系に加えると、初期段階の卵胞発達が抑制されることを見いだした。そこで2020年度は、ピルビン酸の下流に位置するTCAサイクルの代謝物によりUK5099の影響が緩和されるかを調べ、DNAやヒストンの脱メチル化制御に関与することが知られているα-ケトグルタル酸(KG)およびコハク酸が、UK5099による卵胞形成の抑制を緩和することがわかった。一方、遺伝子発現解析から、卵胞発達に重要な増殖因子であるGDF9とBMP15の発現が、UK5099により抑制されることがわった。さらに培養下でGDF9がUK5099による卵胞形成の抑制を緩和することが明らかになった。これらの結果から、ピルビン酸の下流で、エピジェネティック制御を介してGDF9の発現が保障されることにより卵胞発達が促進される可能性が考えられた。さらにMPCのin vivoでの機能を確認するために、Mpc2-floxマウスと生殖細胞で特異的に発現するVasa-Creマウスを交配して得た、Mpc2の生殖細胞特異的な条件的ノックアウトマウス卵巣の解析を行い、ノックアウトマウス卵巣で初期卵胞形成の抑制が起こることがわかった。次にMPC2の阻害がエピゲノムに影響する可能性を、ヒストンアセチル化のCUT & RUN-seq解析により調べる実験に着手した.
2: おおむね順調に進展している
2020年度は、ピルビン酸のミトコンドリアへの取り込み阻害の卵胞形成への影響が、エピゲノム制御に関与する下流代謝産物で緩和されること、ピルビン酸の下流では卵胞発達に重要なGDF9の発現が促進され初期卵胞形成に寄与すること、さらにMpc2ノックアウトマウスの解析からin vivoでもMpc2が初期卵胞形成に関与することを明らかにした。これらの結果は、胎仔生殖細胞の卵母細胞への分化がピルビン酸代謝により制御されるしくみの重要な足がかりになることが期待でき、研究目的に照らして、概ね計画通りの研究の進捗があったと判断できる。一方、エピゲノム解析は新型コロナウイルス感染の拡大に関連した研究協力者の事情により当初計画より遅れ、2021年度まで延長して解析を継続することとした。
今後は、MPC阻害によりエピジェネティック状態が影響を受ける遺伝子のCUT & RUN-seqにより探る研究を継続し結論を得る。特にGdf9遺伝子や、その発現制御に関わるシグナル分子遺伝子などに注目し、阻害剤により遺伝子発現も変化す遺伝子を同定することを目指す。
すべて 2021 その他
すべて 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 4件、 オープンアクセス 3件) 備考 (1件)
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