研究課題/領域番号 |
19H03232
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
川上 厚志 東京工業大学, 生命理工学院, 准教授 (00221896)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 組織再生 / 幹細胞 / ゼブラフィッシュ / トランスジェニック / ヒレ |
研究実績の概要 |
生物は、多細胞体制を長期に維持・再生する能力=組織ホメオスタシスを持つ。近年,再生過程における様々のシグナルや分子の関与が示され,また,再生における細胞の振る舞いや細胞系譜についても解明が進んできた。しかし,依然として,再生プロセスの重要なステップに関して未解明である。そこで本研究は,ゼブラフィッシュのヒレをモデルとして,①再生応答をトリガーする傷シグナルの性質と実体,②組織の主要な基盤となる間葉細胞の由来,多様性,分化多能性,恒常性維持における役割,③位置情報の正体や形態再生のメカニズム,の3つの主軸について研究を行い,これら重要かつ未解明のプロセスの間のリンクを解明することによって,再生過程の統合的な理解をステップアップさせることを目標とする。 本年度は,以下の進捗があった。 ①再生反応をトリガーする傷シグナルの性質と実体:再生応答遺伝子の周辺配列から,高度に保存された配列を複数種類同定した。これらの領域を含むEGFPレポータートランスジェニックを作製し,傷害に応答してEGFPの転写を活性化することを示した。 ②間葉細胞の由来,多様性,分化多能性:組織の大部分を占める間葉細胞の実体については余り理解されていない。特に,間葉細胞の多様性,分化能,再生への寄与など,重要な点がわかっていない。本研究では,間葉細胞を発生期,成長期から追跡するために,発生期の体節や間葉細胞でCreリコンビナーゼを発現するトランスジェニックの作製を進めた。 ③位置情報の正体や形態再生のメカニズム: ゼブラフィッシュの鰭条の長い部域と短い部域を司令する位置情報が存在することを私達は以前に示した。本年度,位置情報の性質の検討をさらに進め,長さの位置情報は,繰り返し再生しても保持される強固な性質を持つこと,移植した組織の大きさや基部-先端位置に依らず切断位置間葉細胞のもつ位置情報で決まることなどが示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究はゼブラフィッシュのヒレをモデルとして, ①再生応答をトリガーする傷シグナルの性質と実体,②組織の主要な基盤となる間葉細胞の由来,多様性,分化多能性,恒常性維持における役割,③位置情報の正体や形態再生のメカニズムについて,研究を進めている。 ①再生応答をトリガーする傷シグナルの性質と実体:組織の恒常性破綻を感知する機構についてはこれまでに全くわかっていない。本研究では,傷害に応答して活性化される遺伝子の転写活性化メカニズム解析から,上流で作用するトリガーの解明を目指している。傷上皮で発現するfn1bに着目し,他の再生応答遺伝子の周辺配列との比較から,高度に保存された配列を複数同定した。これらの領域を含むEGFPレポータートランスジェニックを作製し,いずれも傷害に応答してEGFPの転写を活性化することを示した。 ②間葉細胞の由来,多様性,分化多能性:組織の大部分を占める間葉細胞の実体については余り理解されていない。本研究では,間葉細胞を発生期または成長期に遺伝的に標識して,その細胞子孫が骨芽,軟骨芽,その他など,どの系列の細胞に寄与するか,細胞系譜解析を行うことを目指す。本年度は,発生期の体節や間葉細胞系譜で発現するPax1a, sox9aなどのCre発現トランスジェニックの作製を進めた。 ③位置情報の正体や形態再生のメカニズム: ゼブラフィッシュの尾部ヒレは,中央部の長さは,背腹の端の部分よりも短い。私達は最近の研究で,鰭条の長い部域と短い部域を司令する位置情報が存在することを示した。本年度は,組織移植を用いた位置情報の性質の検討をさらに進め,長さの位置情報は,繰り返し再生しても保持される強固な性質を持つこと,移植した組織の大きさや基部-先端位置に依らず切断位置間葉細胞のもつ位置情報で決まることなどを示した。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究では,それぞれの研究項目について以下のように推進する計画である。 ①再生応答をトリガーする傷シグナルの性質と実体: これまでの研究において,再生エンハンサーを含む領域を300塩基対程度に特定できた。さらに,複数の一見異なった配列が再生に応答する。今後は,これらの領域内の転写因子結合配列を探索し,共通して存在する転写因子結合配列を同定する。さらに,本当に機能的かどうかを,配列の欠失,変異導入や,転写因子結合配列のみのレポーターなどにより検証する。また,結合する転写因子の同定,ノックダウンなどによる機能の検証を進める。 ②間葉細胞の由来,多様性,分化多能性: 以前の研究で,ヒレの鰭条組織の大部分を占める間葉細胞は,発生期の体節に由来することが示されている。しかし,間葉細胞のどのポピュレーションが,いつ,どのように骨芽細胞や軟骨芽細胞へと分化するのかなど,成長過程における間葉細胞の動態についてはほとんど知見がない。今後の研究では,作製したCreトランスジェニック系統を用い,間葉細胞を発生期または成長期に遺伝的に永続標識して,その細胞子孫が骨芽,軟骨芽,その他など,どの系列の細胞に寄与するか,細胞系譜解析を行う。 ③位置情報の正体や形態再生のメカニズム: ゼブラフィッシュの尾部ヒレは,中央部の長さは,背腹の端の部分よりも短い。私達はこれまでに,鰭条の長い部域と短い部域を司令する位置情報が存在することを示し,長さの位置情報は,極めて安定に保持される性質を持ち,切断位置の間葉細胞のもつ位置情報によってヒレ鰭条の長さが決まることを示した。今後の研究では,個体のサイズ(スケーリング)がどのようにヒレの長さ情報に反映されるか,位置情報はどのようにして部域の成長率の差を指令するのか,分子実体の探索を行う。
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