研究課題/領域番号 |
19H03234
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
西田 宏記 大阪大学, 理学研究科, 教授 (60192689)
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研究分担者 |
今井 薫 (佐藤薫) 大阪大学, 理学研究科, 准教授 (00447921)
小沼 健 大阪大学, 理学研究科, 助教 (30632103)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 胚発生 / ホヤ / オタマボヤ / 胚軸 / 動物植物軸 / 左右非対称性 / 卵形成 |
研究実績の概要 |
動物の胚発生における初期の重要な過程として胚軸の決定がある。胚軸には3種類あり、動植軸 (卵の上と下)、それに直交する軸 (カエルなどでは背腹軸、ホヤでは前後軸と呼ばれる。歴史的な理由で呼び方は異なれど同じもの)と、左右軸 (上記の二つの軸に依存して決定されるが、ここでは左右非対称な体の形態形成をもたらす左右軸ベクトルの向きのことをいう)が、3Dの体を作るための軸として設定される。 全ての動物の未受精卵は動植軸を持っている。そして、この軸に沿って三胚葉が配置され原腸陥入へと進行する。動植軸の決定機構は重要であるが、未受精卵に既に動植軸が存在しているために研究しにくいこともあり、研究が少ない。本研究では、ホヤの卵成熟過程とオタマボヤの卵形成過程で起こる動植軸の決定機構を探っている。 左右軸決定に関しては、脊椎動物では、それに繊毛が関与している場合が多い。脊索動物門に属するホヤにおいても繊毛が重要な働きをしているが、繊毛が関与する左右非対称決定機構は脊椎動物とは異なっている。特にホヤにおいては、神経胚回転が左右非対称形成に関して重要な役割を果たすことをこれまでに示してきた。本研究ではホヤとオタマボヤを用いて、左右非対称性の決定機構を探っている。動植と左右の胚軸決定機構を明らかにすることでホヤと脊椎動物を含む脊索動物門に関して、胚軸決定機構の比較が可能になり、脊索動物門の進化についても、推測することが可能になると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ホヤの動植軸の決定機構については、植物半球の割球でのみベータカテニンが核内移行することがわかっており、その核内移行が植物半球特異的遺伝子発現に必要であることがわかっている。また、ホヤ胚のWnt5のmRNAは、受精卵の中で植物極に局在している。しかし、β-カテニンの核移行を植物半球のみで促進する植物半球決定因子の実体は明らかになっていないため、植物半球決定因子の候補として、分泌タンパク質であるWntタンパク質に着目した。レコンビナントWnt5タンパク質でホヤ胚を処理してみたが、残念ながら発生に影響は見られなかった。 オタマボヤの動植軸の決定機構については、動物半球と植物半球のRNA-seqを行った結果より、植物半球に多く存在しているRNAの候補を選択した。それらに対し、蛍光in situ hybridizationで局在を可視化した結果、3つの母性mRNAが産卵された未受精卵の植物極側に既に局在しており、8細胞期で植物半球後方割球に受け継がれていた。この結果により、ワカレオタマボヤにおいて局在 mRNA群が存在することがわかった。 オタマボヤの左右非対称性は、4細胞期に既に検出できる。2細胞期の次の細胞分裂面が互いに7°程度ずれる結果、4細胞期で例えば植物半球前側の割球が少し植物極よりに形成される。微分干渉顕微鏡によるタイムラプス撮影で2細胞期を詳しく観察したところ、仮足様の構造体の存在が確認された。その仮足様の構造体は、常に左の割球の後方からに右の割球の後方に向かって一時的に形成されていた。すなわち、2細胞期の時点で、この構造は左右非対称に形成されることがわかった。この構造が、2細胞期にそれぞれの割球の回転を引き起こし、次の細胞分裂面を互いに7°程度ずらすのかもしれないと推測された。
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今後の研究の推進方策 |
1.オタマボヤの動植軸:上記の結果によって特定された母性局在mRNAが卵形成中に運ばれ局在していく過程を研究する。オタマボヤでは、哺育核の遺伝子発現によって作られた卵巣細胞質がring canalを通って卵内へと流れ込んでいき、卵母細胞が大きくなる。卵形成過程のステージごとに切片 in situ hybridizationを行い、卵形成中の母性mRNAが植物極側に局在化するプロセスを観察する。 2.ホヤの左右軸:ホヤでは初期尾芽胚期に左側の表皮のみでNodal遺伝子が発現する。発現制御領域に関しては既に、Nodal遺伝子の5’上流領域と第一イントロンで左側の発現を再現できることがわかっており、左側での発現をもたらす制御領域をさらに絞り込み、左側特異的発現制御のしくみを明らかにしたい。 3.ホヤの左右軸:マボヤの左右非対称性は、神経胚回転により生じる。神経胚回転とは、神経胚が前後軸を中心に反時計回りに回転し、胚の左側を下向きにして停止する現象を指す。その後、卵膜と接する胚の左側の表皮でのみnodal遺伝子が発現する。神経胚回転は表皮に生えている繊毛運動がdriving forceとなっている。繊毛は必ず回転方向と反対を向いて運動している。このことから、表皮には何らかの平面内細胞極性(PCP)の存在が推察される。これまでの研究で、Prickle (Pk)にビーナス蛍光タンパク質を融合して、Pkの細胞内局在を検出する方法を確立した。この方法を用いて、ホヤの繊毛が必ず回転方向と反対を向いて運動するしくみの解明を目指す。
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