研究課題
申請者は、乳酸菌をヒト皮膚細胞に取り込ませると、リプログラミングが誘導され、細胞に多能性を付与することを世界に先駆けて報告した(Ohta et al., PLOS ONE, 2012)。その後、タンパク質合成装置と考えられてきたリボソームが、リプログラミング物質実体であることを突き止めた(Ito et al., Scientific Reports, 2018)。細胞運命の転換現象は明らかになったが、運命転換機構はまだ解明されていないことから、本研究において、リボソーム誘導型多分化能細胞の分子メカニズムを解析することで、初期発生システムを解き明かし、多能性の意義を問うことが本研究の目的であった。本研究では、ヒトがん細胞株にリボソームを取り込ませ、その影響を調べた。用いたがん細胞は、A549(肺がん)、H-111-TC(胃がん)、MCF-7(乳がん)である。がん細胞にリボソームを取り込ませ、その増殖を調べた結果、全てのがん細胞は細胞塊を形成し、その増殖が停止した。リボソームを取り込んだ細胞塊を2週間ほど培養後、分化誘導培養液でさらに培養すると、脂肪細胞、骨芽細胞、軟骨細胞への分化誘導が観察された。また、MCF-7細胞では、EMT用の原書が観察され、ほぼ無限に増殖するがん細胞においても、リボソームを取り込むと増殖が停止し、形質転換が誘導されることを見出した。
2: おおむね順調に進展している
実験に用いたヒトがん細胞株は、A549(肺がん)、H-111-TC(胃がん)、MCF-7(乳がん)である。これらの細胞にリボソームを取り込ませ、その増殖を調べた結果、全てのがん細胞は細胞塊を形成し、その増殖が停止し、G1期で細胞周期が停止していることが明らかになった。また、特殊な分化誘導液での培養により、脂肪細胞、骨芽細胞、軟骨細胞への分化誘導が観察された。特にMCF-7細胞では、EMT様の現象が観察され、リボソームによる細胞の形質転換が証明出来た。
私たちの研究室では、マウス線維芽細胞を用いてリボソームを取り込んだ細胞内の生物学的イベントを詳細に調べている。例えば、クロマチンのエピジェネティクな修飾やシグナルカスケードのシングルセルRNA-seqによる網羅的解析を行い、興味深い知見が得られている(未発表データ)。今後は、マウス線維芽細胞を用いて得られた結果が、がん細胞でも同様に作用しているのか?またはがん細胞特有の作用機序が存在するのかを明らかにしていきたい。
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すべて 雑誌論文 (3件) (うち国際共著 1件、 査読あり 1件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (2件) (うち招待講演 1件) 備考 (1件)
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https://kyushu-stemcellbiology.com/ja/