研究課題
受精から始まる胚の体軸形成は、個体発生の原点である。しかし植物では、受精卵や初期胚が体軸形成を行う過程において、細胞内でどのような変化が起こるのか、また、それらがどのような遺伝子によって制御されるのか、いまだほとんど分かっていない。その理由としては、被子植物の花の奥深くに存在する受精卵や胚を生きたまま観察する手法がなかったことと、従来の遺伝学的スクリーニングは、致死性や冗長性のために鍵遺伝子を見出すには不充分だった点が挙げられる。そんななか、研究代表者らはシロイヌナズナを用いて、細胞内動態の詳細なライブイメージングを進めてきた(Susaki et. al., 2021)。このライブイメージング手法と、多様な変異体や阻害剤を組み合わせた解析の結果、液胞のような巨大なオルガネラが、柔軟に形を変えながら徐々に受精卵の基部側に移動し、受精卵から始まる頂端-基部軸の形成に寄与することを発見した。さらに、この極性化動態が、液胞膜の柔軟化や移動方向の決定など、さまざまな過程を経て制御されることも見出し、各過程が、膜リン脂質を介した小胞輸送経路や、受精後に活性化されるリン酸化経路によって実現することも突き止めた(Matsumoto et. al., 2021)。加えて、受精卵や初期胚を単離してトランスクリプトーム(RNA-seq)解析を行い、見出した候補遺伝子群の役割について検討した結果、体軸形成に必要だと考えられる因子を複数得ることに成功した。さらに、本研究において見出した細胞内事象や、研究におけるライブイメージング手法の有効性について、学会や学術誌において報告した(Autran et. al., 2021)。
2: おおむね順調に進展している
研究代表者らが独自に立ち上げた植物受精卵の精緻なライブイメージング系について、その方法論だけでなく、見出した現象についても成果発表に至った。加えて、トランスクリプトーム解析によって得られた新規遺伝子群の解析も順調に進行しており、体軸形成を担う新たな機構が明らかになりつつある。
トランスクリプトーム解析によって得られた制御因子の役割を詳細に検討する。具体的には、蛍光タンパク質と融合したマーカー株を作出し、受精卵内部での局在部位や、胚での発現パターンをライブイメージングするとともに、遺伝子破壊株を作出し、体軸形成のどの過程が損なわれたか、イメージング解析も駆使して精緻に判定する。
すべて 2021 その他
すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (3件) (うち国際共著 1件、 査読あり 2件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (1件) (うち国際学会 1件、 招待講演 1件) 備考 (1件)
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http://www.lifesci.tohoku.ac.jp/PlantCellDyn/