研究課題
研究課題1. DUO1を中心とする精細胞形成過程の転写制御ネットワークの解明、研究課題2. 雌雄生殖系列決定因子の探索、の2つを柱に研究を進め、以下の成果を得た。研究課題1については、DUO1の下流で働くと考えられる2つの転写因子DAZ1、RWP1に関して、それぞれの寄与を解析するためのツール(機能喪失変異体とその相補株)の整備を進め、ほぼ完了した。これらのうち、RWP1に関しては、精子核凝縮に関わる3つの塩基性精子核蛋白質前駆体遺伝子H1s1, H1s2, PRMの発現制御に関わる可能性を見出し、それらとともに、機能喪失変異体の解析を進めた。RWP1がこれら3つの遺伝子を直接の制御標的とすることをChIP解析により確認するために、RWP1:Citrine knock-in株を確立した。研究課題2については、(miR529c→SPL2)モデュールが環境条件に依存した生殖成長を制御する進化的に保存されたモデュールであることを共同研究論文により報告した。さらに、それが、配偶子器始原細胞の分化のマスター転写因子BNBの環境依存的な発現調節を介しておこわれることを見出した。(miR529c→SPL2)モデュールの上流にあると予想される、フィトクロムを介した日長認識経路についての共同研究論文を発表した。生殖細胞始祖細胞の分化に関わるクロマチン関連因子MS1について、野生型とms1変異体の初期造精器の透過型電子顕微鏡による観察をおこなった。野生型では生殖細胞にはほとんど存在しない色素体が、ms1変異体では外皮細胞とあまり変わらない頻度で観察されることを見出した。MS1が生殖細胞始祖細胞と外皮細胞始祖細胞を生じる不等分裂と色素体の不等分配に関わる可能性が示唆された。生殖細胞分化における色素体の不等分配の役割はこれまでに報告がなく、新奇な機構として注目される。
2: おおむね順調に進展している
研究課題1. DUO1を中心とする精細胞形成過程の転写制御ネットワークの解明(1) (DUO1→DAZ1)モデュールの役割の検証 相同組換えにより作出したdaz1-KO株がdominant negative型変異であり、野生型遺伝子の導入により相補されないことを確認し、ゲノム編集により遺伝子欠失型の新しいKO株を作出した。この株の相補株の作出を進めた。(2) (DUO1→RWP 1)モデュールの役割の検証 RWP1:Citrine knock-in株を確立した。(3) 精子核凝縮に関わる塩基性精子核蛋白質前駆体遺伝子H1s1, H1s2, PRMの機能解析 これまでに変異体株がなかったH1s2のKO株を作出した。塩基性精子核蛋白質のプロファイルの解析からh1s2とprmがnull alleleであることを確認した。h1s1は不完全ながら機能を保持している可能性があるため、遺伝子欠失型の新しいKO株の再スクリーニングを進めた。研究課題2. 雌雄生殖系列決定因子の探索 (1) mir529c変異体とmiR529c耐性型SPL2を発現する形質転換体では、配偶子器形成を誘導しない条件下においてもBNBが発現することを見出した。(miR529c→SPL2)モデュールがBNBの環境依存的な発現調節に関わることことが示唆された。(2) 生殖細胞始祖細胞の分化に関わるクロマチン関連因子MS1について、MS1:Citrine knock-in (MS1:Citrine-KI) 株を作出した。また、野生型とms1変異体の初期造精器の透過型電子顕微鏡による観察から、野生型では生殖細胞にはほとんど存在しない色素体が、ms1変異体では外皮細胞と同様の密度で存在することを見出した。MS1が生殖細胞始祖細胞を生じる不等分裂・色素体の不等分配に関わる可能性が示唆された。
以下を進める。研究課題1. DUO1を中心とする精細胞形成過程の転写制御ネットワークの解明(1) (DUO1→DAZ1)モデュールの役割の検証 単離した造精器のRNAseq解析により、duo1-KO株とdaz1-KO株における遺伝子発現プロファイルを、野生型株およびそれぞれの相補株と比較する。これにより、DUO1の制御下にある遺伝子のどの程度がDAZ1を介して制御されているかを考察する。前年度に得られた遺伝子欠失型の新しいKO株を用いて実験を進める。(2) DUO1:Citrine knock-in株とRWP1:Citrine knock-in株を用いた造精器のChIP-seq 解析のための実験条件を確立する。(3) 精子核凝縮に関わる塩基性精子核蛋白質前駆体遺伝子H1s1, H1s2, PRMの機能解析をおこなう。塩基性精子核蛋白質のプロファイルの解析によりh1s1のnull alleleを同定する。各前駆体遺伝子のKO株における塩基性精子核蛋白質の蓄積の様態、核凝縮の様態、形成された精子の受精能などを調べる。これらの成果を論文にまとめる。研究課題2. 雌雄生殖系列決定因子の探索 (1) 配偶子器始原細胞の分化のマスター転写因子BNBの環境依存的な発現調節に関わる(miR529c→SPL2→BNB)モデュールの解析を進める。短日条件下における生殖成長への移行の抑制、長日条件から短日条件に戻った際の栄養成長への移行における役割などを調べ、これまでの成果を論文にまとめる。(2) 生殖細胞始祖細胞の分化に関わるクロマチン関連因子MS1については、転写因子BNBとの制御関係の解析を継続する。MS1:Citrine knock-in株を用いて生殖細胞始祖細胞分化過程における発現を精査する。さらに、MS1が生殖細胞始祖細胞を生じる不等分裂・色素体の不等分配に関わる可能性を検証する。
(1)は担当する研究室のHP。(2)と(3)は発表論文について紹介したものである。
すべて 2020 2019 その他
すべて 雑誌論文 (4件) (うち国際共著 1件、 査読あり 4件) 学会発表 (5件) (うち国際学会 1件、 招待講演 1件) 備考 (3件)
Current Biology
巻: 29 ページ: 3307-3314
10.1016/ j.cub.2019.07.084
Nature Plants
巻: 5 ページ: 663-669
10.1038/s41477-019-0466-0
Plant & Cell Physiology
巻: 60 ページ: 1136-1145
10.1093/pcp/pcz029
生化学
巻: 91 ページ: 534 - 539
10.14952/SEIKAGAKU.2019.910534
http://www.plantdevbio.lif.kyoto-u.ac.jp/index.html
http://www.kyoto-u.ac.jp/ja/research/research_results/2019/190920_2.html
http://www.lif.kyoto-u.ac.jp/j/?post_type=research&p=12138