研究課題/領域番号 |
19H03245
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
小山 時隆 京都大学, 理学研究科, 准教授 (30324396)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 概日時計 / 植物 / 細胞 / 遺伝子機能 |
研究実績の概要 |
本研究課題は、概日時計単位である細胞から時計機能が意味を持つ個体レベルまでの統合的な理解を目指して、植物の概日時計遺伝子機能の細胞自律性と組織依存性、同期状態依存性(非依存性)の解明を目的とする。さらに、これまでウキクサ植物を対象としてきた細胞概日リズム観測技術および遺伝子改変手法を、変異体材料が豊富なシロイヌナズナに適用することで、遺伝子レベルの概日リズム解析手法を飛躍させる。 本年度は、重要な時計遺伝子であるELF3にフォーカスし、研究基盤の確立を目指した。ウキクサを用いた1細胞発光リズム観測および1細胞時計遺伝子破壊の解析から、ELF3遺伝子は細胞自律的に機能することが以前からわかっていた。ELF3をターゲットとして、容易で確実な遺伝子破壊法であるCRISPR/cas9系を用いることで、シロイヌナズナの遺伝子機能欠損細胞の作成効率を調べた。シロイヌナズナの成熟細胞では染色体の核内倍加が起こっているため、CRISPR/cas9系で全ての染色体上の遺伝子破壊を行う確率が低くなることが想定された。4倍体シロイヌナズナ等を用いた遺伝子破壊効率の解析および数理的モデルにより、効率の良いgRNA(ガイドRNA)を用いれば、核内倍加の影響は抑えられることを実証した。1細胞レベルの遺伝子破壊系をシロイヌナズナで確立できたことで、様々な時計関連遺伝子の細胞レベルの機能解析の効率化が実現された。 概日発光レポーターをもつ形質転換シロイヌナズナの単離細胞の1細胞レベル概日リズム解析手法を確立した。個体内環境の影響を全く受けない系であり、遺伝子機能の細胞自律性を直接的に解析することが可能となった。また、個々の時計遺伝子の下流で動く遺伝子の挙動を解析するため、位相/発現場所(時期)の異なる概日発光レポーターを開発した。これらの解析手法/材料は本研究課題を推進する重要な基盤となる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究初年度である2019年度は、本課題を遂行する上で必須となるシロイヌナズナを対象とした解析手法/材料の確立を行うことができた点で、研究は大いに進展した。特に、2倍体細胞がほとんどであるウキクサと同様に染色体の核内倍加が進むシロイヌナズナでもCRISPR/cas9系が働くことを実証したことで、研究の1つの山場を超えることができた。そのほかにも、各種概日発光レポーター系の開発やプロトプラスト化を伴う単離細胞の1細胞レベル概日リズム観測系を確立した。それらの単一細胞由来の超微弱光の検出が可能な、超高感度EM-CCDカメラを用いた発光モニタリング装置のセットアップも完了し、今後の計画を進める上で重要な研究基盤を整えることができた。一方で、シロイヌナズナの時計遺伝子変異体の解析を進めることができなかった点で、当初の研究計画の一部を進められなかった。このように、計画内容の幾つかで達成できなかった点もあったが、当初の研究計画を遂行するための研究基盤の確立がほぼできた点で、本研究は概ね順調に進展していると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
研究初年度で本課題を遂行する上で重要な研究基盤を確立することができた。次年度は時計遺伝子機能解析用エフェクターセットの構築を急ぐとともに、時計遺伝子変異体での細胞概日リズム解析を進める。特に、エフェクターについては、コンストラクションが容易なCRISPR/cas9系のセットを作る。これらのエフェクターの効果を様々な条件(同期状態or非同期状態の違い、概日発光レポーターの違いなど)下で定量的に解析することで、各時計遺伝子機能の細胞自律性/非自律性、時計出力依存性、同期状態依存性の検証を進める。また、マクロ顕微鏡を用いて、培養液中の単離細胞の1細胞レベル概日リズム高精度観測系を構築する。これらの観測系を活用することで、時計遺伝子エフェクターによる細胞レベルの概日リズム解析を高効率・高精度で進めていく。
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