研究課題/領域番号 |
19H03251
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研究機関 | 名城大学 |
研究代表者 |
塚越 啓央 名城大学, 農学部, 准教授 (30594056)
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研究分担者 |
志水 元亨 名城大学, 農学部, 准教授 (20423535)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 側根発達 / 転写ネットワーク / イメージング / VLCFA / 概日リズム |
研究実績の概要 |
側根形成を細胞の脱分化から再分化への変換を捉えるモデルとして、極長鎖脂肪酸(VLCFA)をシグナル分子として利用する新たな細胞分化の分子メカニズムの存在を明らかにすることを本研究の目的とする。本研究の開始前までに、VLCFAが時計遺伝子の発現に影響を与えること、時計遺伝子以外の遺伝子群(以下、選抜遺伝子とする)を見出している。この研究目的を達成するためにVLCFAシグナルを1)入力、2)伝達、3)出力の3段階にわけ、それぞれの段階をイメージング、分子遺伝学、遺伝子発現解析を中心に行い明らかにする。 1)の入力ではVLCFAの輸送や受容に関わると考えられるLipid Transfer Protein (LTP)のVLCFAへの結合特性、LTPと細胞膜上で結合する相互作用因子の探索、LTP変異株の側根発達に関わるVLCFAやオーキシン応答性を調べている。2)の伝達ではVLCFA量を変化させ時計プロモーターLUCレポーターラインの概日リズム変化の測定、側根形成部位での時計遺伝子の発現様式解析、VLCFAシグナルをうけ時計遺伝子の下流で働く遺伝子群の探索を行っている。3)の出力では時計遺伝子変異株や選抜遺伝子の遺伝子破壊株を用いた側根発達に関わる表現型の解析、それらのプロモーターレポーターラインの作成と詳細な側根発達段階でのイメージングによる発現解析を進めている。また、VLCFA量の変化自体も捉えることが重要と考え、VLCFA生合成に関わる変異株をいくつか獲得し、それらの側根発達の表現型を調べている。 シグナル伝達経路の研究においては、異なるシグナル間でのクロストークやフィードバック制御が重要となる。そこで、LTP、時計遺伝子群、選抜遺伝子群、VLCFA生合成酵素遺伝子破壊株の根を用い、研究分担者とともにGC/MSによるVLCFAの量の変化や分子種の変化の解析を行っている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1)入力: In vitro 転写翻訳系を用いたLTPG1とLTPG2の安定的な合成を確立した。このタンパク質を用いて今年度は様々な炭素鎖数の飽和脂肪酸との結合をLipid Over Lay アッセイを行った。その結果LTPG1とLTPG2共に特定の炭素鎖のVLCFAに結合能を示すことを見出した。また、LTPGとタンパク質レベルで結合する相互作用因子の探索も行った。データベースを用いた候補タンパク質の絞り込みを進め、BiFC法による相互作用の確認を行う予定である。令和1年度はBiFCアッセイに用いるLTPGと候補遺伝子のクローニングを済ませた。ltpg変異株に外部からVLCFAを加え、後半ステージの側根が増加している事を見出した。また、ltpgの根のVLCFA量を研究分担者と共にGC/MSを用いて解析した。その結果、ltpgの根では特定の鎖長のVLCFAが増加していた。 2)伝達:時計遺伝子プロモーターLUC融合レポーターを用いてVLCFA合成阻害剤を処理したときの周期変動の条件を確定した。LUCレポーター遺伝子を持つ植物体と、各種変異株との交配を進め、F3世代の植物体を獲得した。レポーターアッセイに加えて、各種変異株の根の全体、もしくは側根形成部位のみからRNAを抽出しqPCRによる遺伝子発現解析を行った。その結果、ltpgやVLCFA生合成変異株では時計遺伝子の発現量が減少していた。すなわち内生VLCFAの量の変化が側根形成に関わることが強く示唆された。同時に選抜遺伝子群の発現解析も行い、これらの遺伝子群の発現にもVLCFAが関わる事がわかった。 3)出力:オーキシンシグナルとVLCFAシグナルのクロストークを分子レベルで解析をするために、オーキシン応答性遺伝子DR5::GFPとltpg、時計遺伝子、VLCFA生合成遺伝子変異株との交配を進めF3世代を獲得する事ができた。
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今後の研究の推進方策 |
令和1年度で獲得したリソースを用いて、詳細な分子生物学、イメージング解析を進めVLCFAシグナルによる側根発達に関わる分子メカニズムを明らかにする。 1)入力:LTPGと相互作用するタンパク質を実験的に証明するために、BiFCアッセイを行う。また、ltpg変異株での遺伝子発現の変化を網羅的に調べるためにltpg1, ltpg2変異株の根のRNAを用いたRNAseq解析を進める。VLCFA生合成遺伝子破壊株を用いたRNAseqを同時に行いVLCFAの量の低下が遺伝子発現に与える影響を網羅的に解析する。VLCFAの量の変化に関しては、他のシグナルとのクロストーク、フィードバックも勘案しオーキシンや時計遺伝子などの様々な変異株の根のVLCFA量を定量する。 2)伝達:令和1年度に獲得したLUCレポーターラインとltpgやVLCFA生合成変異株との交配F3ラインを用い、VLCFAが時計遺伝子の周期変動に与える影響を遺伝学的に確定する。また、地上部でのLUCレポーターラインの周期変動のみならず、根でのLUCレポーターの周期変動を調べる方法の確立を試みる。現在までの予備的な実験から時計遺伝子は根全体で発現を示しておらず、側根形成部位での特異的な発現が認められている。時計遺伝子破壊株を用いたタイムコースqPCR解析により、VLCFAのシグナルを受容して時計遺伝子を介した側根発達にかかわる下流因子の同定を進める。 3)出力:令和1年度に獲得したF3世代を用いた解析を進める。この解析を進める事でオーキシンとVLCFAシグナルの側根発達に関わるクロストークを明らかにする。具体的にはタイムラプスイメージングを行い、DR5の発現パターンと側根のステージの進行の時空間的パターンを捉える。可能であれば、その時間的変化を定量化する方法の確立も目指す。さらに前年度作成した選抜遺伝子群の発現様式の詳細も調べる。
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