研究課題/領域番号 |
19H03253
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研究機関 | 岡山理科大学 |
研究代表者 |
林 謙一郎 岡山理科大学, 理学部, 教授 (30289136)
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研究分担者 |
笠原 博幸 東京農工大学, (連合)農学研究科(研究院), 教授 (00342767)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | オーキシン / 不活性化 / 代謝経路 / 植物ホルモン |
研究実績の概要 |
オーキシンは、植物の分化・成長のあらゆる局面で働く主要な植物ホルモンである。天然オーキシンであるインドール-3-酢酸(IAA)の代謝不活性化経路の解明を、研究目標として本研究課題を推進してきた。モデル植物のシロイヌナズナではIAAのメチルエステル化、IAAの配糖体化、IAAの酸化、IAAのアミノ酸付加の4種類の不活性化経路が提唱されてきたが、各経路の生理的な役割は明確ではなかった。このうち、GH3酵素によるIAAへのアミノ酸(Asp・Glu)の付加反応と、2-オキソグルタル酸依存性ジオキシゲナーゼDAO酵素によるIAAからoxIAAへの酸化反応の2つが、IAAの主な不活性経路であるとされてきた。さらに、IAA-アミノ酸複合体を加水分解するILR1酵素がオーキシン代謝経路に関与することが示唆された。
本研究において、これまでの研究報告から、IAAはGH3とDAO酵素が直線状に並んだ経路で代謝されるとの仮説を立てた。すなわちIAAはGH3酵素によりIAA-Asp・IAA-Gluへと変換され、これら2つのIAA-アミノ酸複合体はDAO1によって酸化され、oxIAA-Asp、oxIAA-Gluへと代謝されると考えた。IAA代謝酵素の変異体についてIAA代謝産物の精密定量分析および取り込み実験を行った結果、GH3とDAO酵素に加えて、ILR1アミド加水分解酵素がoxIAA-アミノ酸複合体をoxIAAへと加水分解することを明らかとした。以上のことから、IAAの代謝は、GH3-ILR1-DAO経路を介して調節されていることが明らかとした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
IAA不活性化経路の再構築研究にあたり、(1)「GH3酵素阻害剤・細胞膜透過性IAA-アミノ酸誘導体の合成と評価」(2)「代謝酵素の欠失変異株・過剰発現体の作成と代謝中間体の精密定量」(3)「不活性化酵素の基質特異性」の三つの軸として研究を進めた。 (1)GH3酵素阻害剤KAKEIMIDEを創成した。この阻害剤でシロイヌナズナを処理すると、内生IAAが大過剰に蓄積され、きわめて強いオーキシン過剰の表現型が観察された。また、膜透過性のプロドラッグとして作用するIAA-アミノ酸エステル誘導体の合成に成功し、この膜透過性誘導体が、細胞内でIAA-アミノ酸へと変換されることを確認した。 (2)シロイヌナズナのIAAの不活性化を担うとされているGH3酵素遺伝子8種に加えて、IAA不活性化酵素のDAO1、UGT84B1、IAMT1などのエストラジオール誘導系の過剰発現体とそれら欠損変異体の多重変異体を構築した。IAA代謝中間体のフィーディング実験とLC-MS/MSによる定量分析により、これら形質転換体におけるIAA代謝産物の動的な流れを解析した。その結果、代謝酵素の欠失変異株・過剰発現体およびGH3阻害剤処理における代謝中間体の蓄積・低減量は、GH3-ILR1-DAO不活性化経路によるものと支持された。 (3)DAO組換え酵素がIAA-AspをoxIAA-AspへとIAAの2000倍以上速く酸化することを見出した。また、ILR1の基質特異性を解析するため、小麦無細胞系でnativeなILR1酵素の発現させ、その酵素活性を評価したところ、ILR1酵素は、IAA-アミノ酸に加えて、oxIAA-アミノ酸を加水分解する活性を示した。以上の結果から、GH3-ILR1-DAO不活性化経路が、GH3とDAOが直列に配置され、ILR1が貯蔵型IAA-アミノ酸を介して、IAAのホメオスタシスを調節するGH3-ILR1-DAO不活性化経路の存在を決定した。
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今後の研究の推進方策 |
本研究課題で目標として設定したIAAの代謝経路について、ほぼ目標を達成できた。一方、IAAの代謝経路の下流にあたるoxIAAがさらなる酸化を受けて生じるdioxIAAやイネで報告されているdioxIAA-Aspは、代謝物そのものは同定できているが、その代謝酵素遺伝子は同定できていない。これら代謝酵素遺伝子の同定を検討する。また、IAA配糖体化酵素の生理的な役割については不明であり、この代謝酵素の解析を進める。
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