研究課題
我々はこれまでにABA合成酵素を制御する転写因子をスクリーニングし、ABA合成酵素のプロモーターに結合する転写因子を同定することに成功している。さらにこの転写因子が、ストレス依存的にABA合成酵素遺伝子の発現を上昇させ、乾燥ストレス応答に関わることを見いだしている。そこで着目しているペプチドー受容体が、同定した転写因子を介してABA合成酵素の発現を制御していることを明らかにする目的で、転写因子のタンパク質修飾を高分解能質量分析装置を用いて解析した。これまでの知見から、ロイシンリッチリピート型RLK受容体は、リン酸化修飾を介した細胞内シグナル伝達経路を制御することが知られている。そこで野生型植物体、および受容体遺伝子破壊変異体に転写因子-GFP融合タンパク質を過剰発現させた植物体を作製し、これら植物体に対してコントロール処理および乾燥ストレス処理を行った。その後GFP抗体を用いて免疫沈降を行いゲルから回収後、トリプシン処理を行いin-gel digestionを行った後、リン酸化ペプチド濃縮カラムを用いてペプチドの濃縮・生成を行った。その後高分解能質量分析装置を用いてリン酸化ペプチドを解析し、ストレス依存的および受容体変位による転写因子タンパク質におけるリン酸化修飾部位の変化を解析した。その結果、転写因子は乾燥ストレス依存的にリン酸化修飾を受けること、さらにそのリン酸化修飾は受容体の変異依存的におこることを明らかにした。これらの結果は、目的転写因子がペプチド-受容体の下流に位置し、乾燥ストレス応答に関わることを示している。次にリン酸化修飾を受けるアミノ酸部位に変異を導入してリン酸化修飾を模倣させた後、転写活性化能を解析した。その結果複数の標的アミノ酸がリン酸化修飾を受けると転写活性化能が増加しABA合成酵素遺伝子の発現を上昇させることをin vitroで明らかにした。
2: おおむね順調に進展している
高分解能質量分析装置を用いて、標的転写因子が乾燥ストレス依存的にリン酸化修飾を受けること、さらにこのリン酸化修飾は受容体の変異に依存的におこることを明らかにし、この標的転写因子が、ペプチド-受容体の下流で機能し乾燥ストレス応答に関わることを明らかにすることができた。さらにリン酸化修飾をうけるアミノ酸に変異を入れて、リン酸化修飾状態を模倣し転写活性化能の変化を解析した結果、複数のリン酸化修飾を受けることで転写活性化能が増加し、標的であるABA合成酵素遺伝子の発現をより上昇させることも明らかにできた。これらの結果から、ペプチド-受容体-標的転写因子が連続した1本のシグナル伝達系として機能し、乾燥ストレス応答を制御することを示せたことは、非常に重要な結果である。さらにリン酸化修飾を受けるアミノ酸部位の配列解析から、転写因子をリン酸化するタンパク質リン酸化酵素群の予測するリーニングを行うことにも成功した。このスクリーニングでは、これまでに報告されているABA応答に関わる重要な数種類のタンパク質リン酸化酵素が関わり、複合的なタンパク質リン酸化酵素による修飾を受けて、標的転写因子が活性化されていることが明kとなりつつある。これらのスクリーニング結果は、ペプチド-受容体-転写因子が、乾燥・ABA応答のシグナル伝達経路において、主要なタンパク質リン酸化酵素を介したメインストリームシグナルの1つとして機能していることを示唆するものであり、次年度の研究計画において重要な解明課題の1つとなる成果につながったことも大きい。
標的転写因子のリン酸化修飾アミノ酸部位に様々な変異を導入した変異型転写因子タンパク質を作製し、これらの形質転換植物の作製を進めている。今後、これら標的転写因子組換え植物の作製を終了させ、リン酸化修飾の差異による転写活性化能の変化に関してin vivo解析を行う。また受容体の下流で機能するリン酸化タンパク質群の候補を、さらに解析する目的で、野生型植物体および受容体変異体を用いて、高分解能質量分析装置を使った網羅的なリン酸化プロテオーム解析を行い、ペプチド-受容体の直接的な下流タンパク質群の同定を行う。さらに受容体の変異体だけでなく、ABA合成欠損変異体を併せて用いることで、ポジティブフィードバック作用があるABA応答の影響を受けずに、目的の水分ストレス応答だけに商店を絞って解析を行うことも計画している。絞り込みには組織別オミックス発現情報も活用する予定である。また網羅的リン酸化プロテオーム解析を行うことで、現在着目している標的転写因子だけでなく、新たな候補転写因子を同定することも見込んでいる。受容体の下流に広がる大規模なリン酸化シグナル伝達リレーの一端を明らかにすることができれば、非常に大きな成果になると考えている。また、現在着目している標的転写因子と相互作用する因子群の解析も行う。野生型植物および受容体変異体を遺伝的背景とした転写因子-GFP過剰発現植物体を作成済みであることから、これら植物体を用いてストレス処理を行い、乾燥ストレス依存的に転写因子に結合する因子群、さらに受容体依存的に転写因子に結合する因子群を新たに同定できると考えている。転写因子と相互作用する因子群を明らかにし、それらの細胞内機能を明らかにすることで、新たな乾燥・ABA応答シグナルおよびABA合成酵素の発現を制御する分子メカニズムの解明につながり、さらに大きな成果に発展させることができる。
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