研究課題
内容: 従来、細胞分裂の研究は細胞核の分裂機構を対象として行われ、オルガネラの分裂の研究は殆どなされていなかった。申請者らは、1984年来、基本的なオルガネラを1つずつ持つ原始紅藻類(シゾン類)を材料とし、ミトコンドリアと色素体(葉緑体)が多重の分裂装置(リング)を使って分裂・増殖すること、及びペルオキシソームも分裂装置により分裂・増殖すること等を発見してきた。本研究では、これらオルガネラが相互作用をしながら分裂・増殖し、連鎖して、最終的に細胞質分裂を誘導する仕組みを解明することを目的としている。先ずミトコンドリアとペルオキシソームの分裂装置を構成する物質の類似性・動態を検証した。その結果、ミトコンドリアの分裂にダイナミン(Dnm1)とDYNAMO1が使われること、分裂後、解体された装置の物質がペルオキシソームの分裂装置に再利用されて使われることを明らかにした。又、ミトコンドリアの分裂装置の収縮に関与したオーロラキナーゼとキネシン様物質が紡錘体に移動し、細胞核分裂と細胞質分裂に関与することが示唆された。更にシゾンで細胞質分裂の分裂面の収縮を誘導する物質(ESCRT等)が、古細菌類からヒトに至る真核生物まで細胞質分裂を制御していることが分った。意義: 今回細胞核分裂に先立ち、ミトコンドリアなどオルガネラの分裂・増殖が必須であること、各オルガネラの分裂・増殖間に関連性があること、そしてそれをもたらす物質が最後に細胞質分裂を導くこと等を明らかにした。重要性: 細胞の分裂・増殖に先立ち、基本的なオルガネラの分裂・増殖が必須であることが、始原的な真核生物シゾンで最初に解ったこと、次にシゾンでその機能が明らかとなったDYNAMO1がヒトの癌の転移阻害に有効であること、及びミトコンドリアの分裂を制御するオーロラキナーゼがヒトでも同様に機能していること等が解った。
1: 当初の計画以上に進展している
1.ミトコンドリアとペルオキシソームの分裂装置(リング)を構成する物質の類似性・動態について: ペルオキシソームで、分裂の高度同調化に成功し、分裂装置の単離・構成成分の同定が可能になり、新たにダイナミン(Dnm1)とDYNAMO1を発見した。これは細胞内でのGTPaseの作用を制御するタンパク質であり、ミトコンドリアの分裂装置の機能をも制御することが明らかになった。更にその後に起こる他のオルガネラの分裂にも重要な関与をしていることが示唆された。米国ではDYNAMO1がヒトの癌細胞の転移制御にも機能していることが公表された。2.オーロラキナーゼの作用について: 当初はミトコンドリアの分裂装置に局在し、ミトコンドリアの分裂制御に関与していることが示されたが、その後時間の経過とともに細胞質に移動し、紡錘体で機能することが明らかになった。更に細胞質分裂での役目も示唆された。3.細胞質分裂に関与する基本物質について: 細胞分裂は細菌のような原核生物から、高等動植物のような真核生物の細胞に共通な現象である。この基本機構を解くために、始原的な原始紅藻シゾンを使って研究してきたが、シゾンで見つかった細胞質分裂の誘導物質(ESCRT等)が、原核生物から真核生物全般に働いていることが明らかになった。
ミトコンドリア、色素体、ペルオキシソームなどオルガネラが分裂してから、最終的には細胞質分裂が起きる連鎖機構が存在することが解ってきた。そのなかでTOPやオーロラキナーゼ等が一度オルガネラの分裂面に行き、それから細胞核分裂に関わる紡錘体、そして最終的に細胞質分裂に関わる分断領域に移動することが示唆されている。これらについてさらに詳しく追跡する。一方最後に起こる細胞質分裂の誘導物質(ESCRT等)についても、シゾンを「基」に比較解析したところ、原核生物から真核生物全般で細胞質分裂を統御していることが分った。従ってオルガネラの分裂・増殖の連鎖から、最後に起こる細胞質分裂に至る物質連鎖の基本機構が解析可能であり、シゾンやメダカモ等を中心材料としてゲノム形態学的に解明する。
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