研究課題
細胞増殖の基本原理である、オルガネラの分裂・増殖を含む細胞分裂の研究をするため、各オルガネラを1つずつ持ち、それらの高度な同調分裂が可能な単細胞の原始紅藻類(シゾン類)を材料として使用した。その結果、細胞分裂期にはいると複膜系のミトコンドリアと色素体(葉緑体)、更に単膜系のペルオキシソームが分裂装置(多重リング)により順次分裂すること、その情報を得て最終的に細胞質分裂が起こることを発見した。本研究の目的は、各オルガネラの分裂・増殖の相互作用を探るとともに、それを細胞核・細胞質分裂装置に伝え、最終的に起こる細胞質分裂の分子機構を、ゲノム形態学的に解明することである。本年度は、これまで明らかにしてきたオルガネラの分裂に関わる分子に加え、DYNAMOIIが働いていること、ミトコンドリアの分裂後、解体された分裂装置の一部がペルオキシソームの分裂に再利用されていることを明らかにした。次にミトコンドリアと葉緑体の分裂装置の収縮に関与したTOP(キネシン様物質)が、分裂後紡錘体極に移動し、細胞核分裂に関与することが示唆された。その後TOPは細胞質分裂面に移動する事を確認した。更にこれまで確認できなかったシゾンの中期染色体の観察法を見いだすことができたので、TOPの機能が明確になろう。細胞質分裂では、始原的に収縮を起こす共通の物質(EF1α)を見出し、最後の膜分断に関わる分子類(ESCRT-III、ALIX、VPS4等)の挙動を解明した。更にこれらは、原始紅藻シゾンからヒトに至る多くの種に存在することが明らかになったことから、植物細胞のみならず真核生物の細胞分裂の基本機構の解明になると考えられる。そして真核細胞の分裂・増殖には、細胞核のみならず、各オルガネラの分裂・増殖が必須であることが、シゾンで最初に証明された事になる。
1: 当初の計画以上に進展している
1.複膜系のミトコンドリアと単膜系のペルオキシソームの分裂装置(リング)の類似性: ミトコンドリアとペルオキシソームの分裂の高度同調化に成功し、両分裂装置の単離・構成成分の同定がなされた。その結果、両オルガネラに同じダイナミン(Dnm1)とDYNAMO1に加え、更にGTPレベルを変化させるDYNAMOIIが発見された。これらは細胞内でのGTPaseの作用を制御するタンパク質として共通性が高く、両オルガネラが共通の祖先から誕生したという説を支持した。またDYNAMO1がヒトの癌細胞の転移制御にも有効であることが明らかとなり、オルガネラ分裂との関連性について詳細に調べている。2.TOPの作用について: 本酵素は各オルガネラの分裂の誘導に関係した後、細胞核分裂の開始前に、紡錘体の両極に異動して細胞核分裂を誘導した。次に、細胞質分裂の最終段階の括れ部分に移動し、膜分断に関与することを捉えた。3.細胞質分裂に関与する基本物質について: 細胞質分裂の最終段階の膜分断にはTOPの他にESCRT-III、ALIX、VPS4等が働くことが発見された。これらのタンパク質はある種の古細菌、シゾンそしてヒトに至る真核動植物まで共通に存在する事が明らかになってきた。シゾンを通じて、細胞分裂の基本原理の解明につながると考えられる。
ミトコンドリア、色素体、ペルオキシソームなどオルガネラが分裂してから、最終的には細胞質分裂が起きる連鎖機構が存在することが解ってきた。そのなかでTOPやオーロラキナーゼ等が一度オルガネラの分裂面に行き、それから細胞核分裂に関わる紡錘体、そして最終的に細胞質分裂に関わる分断領域に移動することが示唆されている。これらについてさらに詳しく追跡する。一方最後に起こる細胞質分裂の誘導物質(ESCRT等)についても、シゾンを「基」に比較解析したところ、原核生物から真核生物全般で細胞質分裂を統御していることが分った。従ってオルガネラの分裂・増殖の連鎖から、最後に起こる細胞質分裂に至る物質連鎖の基本機構が解析可能であり、シゾンやメダカモ等を中心材料としてゲノム形態学的に解明する。
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