研究課題
本研究では、GABA, GnRH, 甲状腺ホルモンの3種の液性因子が紡ぐ協調的作用によってホヤの変態が制御される機構の解明を目指している。これまで研究によって、ホヤの変態時に機能するGABA受容体は代謝型受容体であることが分かっている。GnRHも含め、これらの受容体は下流タンパク質としてGプロテインを利用しているため、変態を制御しているGプロテインの同定が変態機構の解明に重要である。そこでGプロテインをコードする遺伝子群をノックアウトして変態への影響を観察し、変態イベントのうち尾部吸収に働くものを一つ同定した。我々は遺伝子発現プロファイル解析から、GnRHシグナリングによって発現が制御されている遺伝子のリストを得ている。これらはホヤの変態開始・進行を担う遺伝子である可能性が高く、これらの遺伝子の機能を解析することで変態機構へと迫ることを進めている。その中で、2019度はD-セリンに着目して研究を実施し、D-セリンは尾部吸収イベントの一部に必要であることを突き止めた。引き続き、D-セリンの受容体の同定を進めている。甲状腺ホルモン関係については、ホヤの甲状腺相同器官である内柱での発現が知られている2つの転写因子TTF1とFoxEのノックアウトを実施し、内柱がないホヤを作製した。これらのホヤにおいては甲状腺ホルモン合成に必要な遺伝子TPOの発現が消失していることを確認した。一方で内柱の無いホヤは正常に尾部吸収を経て変態し、また体の成長も野生型とほぼ変わらなかった。このことは、TPOのノックアウトにより体の成長がほぼ停止することと対照的で、極めて興味深い表現型である。本年度は学会における発表の他、Hox13がホヤの生殖器官形成に必要であることを示した原著論文を発表した。またGABA-GnRH経路がホヤの変態に必須であることを解明した原著論文を投稿し、出版予定状態にまでもっていった。
2: おおむね順調に進展している
GABAとGnRHについては、下流のシグナル経路の同定に重要な因子を特定していること、GnRHの下流で働くD-セリンを同定したこと、甲状腺ホルモンの理解に必須である内柱がないホヤの作製に成功し、甲状腺ホルモン合成酵素と共に表現型を明らかにしたことなど、一定の結果が得られているため。
次年度は、本年度得られたGプロテインの解析をさらに進め、どのようにGABAが代謝型受容体を使いながらGnRHシグナルをオンにして変態を開始させるのか、GnRHとその下流のD-セリンが尾部吸収を開始させる機構、甲状腺ホルモン合成酵素と内柱のloss-of-functionの表現型の不一致の機構の解明を進めることで、ホヤの変態を制御するこれらの因子によるそれぞれの調節機構が統合されてホヤの変態が進むメカニズムの解明を目指す。
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Developmental Biology
巻: 458 ページ: 120-131
10.1016/j.ydbio.2019.10.028