研究実績の概要 |
本研究では、GABA, GnRH, 甲状腺ホルモンの3種の液性因子が紡ぐ協調的作用によってホヤの変態が制御される機構の解明を目指している。これまで研究によって、ホヤの変態時に機能する神経伝達物質の受容体の下流で働くGプロテインのうち、特に尾部吸収に必要なものを同定した。このGプロテインはGsタイプであり、cAMPの濃度を上昇させる働きがあるはずである。そこでcAMPの合成に関わるアデニル酸シクラーゼをコードする遺伝子の調査を実施した。カタユウレイボヤは4種類のアデニル酸シクラーゼを持つが、それらが変態の理解に重要な組織(尾部及び付着突起)で発現し、さらに発現パターンが互いに類似することを明らかにした。また、これらの遺伝子の機能阻害を実施し、1つの遺伝子について尾部吸収の過程に異常を示すことが判明した。今後、この異常の原因を追及する予定である。 去年度、D-セリンが尾部吸収に必要であることを突き止めた。本年度はD-セリンの受容体の探索を実施した。D-セリンを幼生に添加すると変態時に生じる変化と同様に表皮の剥離を引き起こすが、同じ反応を誘導する因子としてグリシンを見いだした。D-セリンとグリシンは脊椎動物において、NMDA型グルタミン酸受容体に結合することが判明している。そのためこの受容体が変態に関わる可能性が出てきた。実際にNMDA型グルタミン酸受容体の機能を阻害剤によって抑制すると、表皮の剥離及び尾部吸収進行の遅延が生じたため、NMDA型グルタミン酸受容体がD-セリンの受容体の強い候補となっている。現在、本可能性についてさらなる追試を実施している。本年度は甲状腺ホルモン関係については目立った進展が得られず、2021年度の課題となっている。 本年度は国内のホヤ研究者を対象にした研究会における発表の他、尾部吸収時における細胞運動を詳細に記載した論文の発表を実施した。
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