日常生活で意識することは少ないかもしれないが、見ること、つまり視覚応答以外にも生物は光に応答している。例えば概日時計の光応答や瞳孔収縮などの視覚以外の光応答などをまとめて、非視覚応答と呼ぶ。哺乳類の網膜神経節細胞の2-3%は青色光感受性GPCRであるメラノプシンを発現しており、melanopsin-expressing RGC(mRGC)は桿体・錐体に次ぐ第三の光受容細胞として機能している。現代社会において夜間の光暴露は避けられない。不適切な時間、つまり夜間の寝る直前のブルーライトは概日時計の乱れを引き起こす。概日リズムの乱れは睡眠や鬱、癌の発症などと関連する。つまり、青色光を特に感度良く感じる概日光受容分子メラノプシンの分子理解は、これらの疾患や不調の改善、ひいては特に高齢化社会において生活の質と健康の促進に役立つ。mRGCは網膜の中でも脳への情報伝達の最終段階である神経節細胞の一部である。なぜ神経節細胞に光受容能が存在するのか、さらに、形態の違いよって数十種類以上に分類される神経節細胞の内、なぜごく一部の細胞だけが非視覚応答に特化した機能を有するのかはわかっていない。これまでに、リン酸化制御と光応答の終了過程を明らかにした。これらの知見を発展させ、メラノプシン分子の性質および細胞特異性の解明に取り組んでいる。また、これまでに、桿体・錐体の光受容体には作用せずメラノプシンに特異的に作用するアンタゴニストであるオプシナマイドを世界で初めて開発し、マウスの非視覚応答を in vivoで阻害することに成功したが、オプシナマイドの生体内半減期はマウスで約30分であった。作用時間がより長くかつ活性が強い阻害剤ならびに初の活性化剤を見出すことを目的に、化合物スクリーニングを開始した。
|