本研究では、互いに近縁でありながら異なる性決定システム(XY型およびZW型)を示すメダカ属javanicusグループの4種について、全種から性決定遺伝子を同定することで、XY型からZW型が生じた進化メカニズムを解明することを目的としている。本年度は、ゲノム解析とノックアウト解析によって性決定遺伝子候補の同定を目指し、以下の実験を行った。 ZW型を示すジャワメダカ(ペナン系統、マレーシア)については、これまでに特定したW染色体特異的な複数の重複遺伝子を同定し、CRISPR/Cas9法によってノックアウト実験を実施した。しかし、候補遺伝子の変異そのものではなく、候補遺伝子間の欠失によって性転換が誘導されたことが示唆され、遺伝子間領域に真の性決定遺伝子の存在が予測された。一方、本種のスラウェシ系統(インドネシア)はXY型であり、性染色体はメダカ9番染色体と相同であった。また、ノックアウト実験などにより、性決定遺伝子の実体がY染色体のみで多重重複したDmrt1Yであることも判明した。さらに、ペナン系統とスラウェシ系統の交配実験から、W染色体に対してY染色体が上位であることが示され、Dmrt1Yの獲得により、種内でZW型からXY型への交代が生じた可能性が考えられた。 ZW型のハブスメダカについては、ゲノム解析によって高精度のZ染色体配列とW染色体配列の構築に成功し、W特異的な3つの候補遺伝子を得た。これらのうち2つについてノックアウト実験を行ったが、両者とも性決定に関与しないことが判明した。また、タイメダカについてもゲノム解析とトランクリプトーム解析を併用して性決定遺伝子を探索し、いくつかの候補遺伝子を得た。今後の解析により、性決定遺伝子候補の特定を目指したいと考えている。
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