研究課題/領域番号 |
19H03273
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研究機関 | 富山大学 |
研究代表者 |
前川 清人 富山大学, 学術研究部理学系, 准教授 (20345557)
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研究分担者 |
矢口 甫 関西学院大学, 理工学部, 研究員 (10803380)
増岡 裕大 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構, 生物機能利用研究部門, 研究員 (80816950)
沓掛 磨也子 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 生命工学領域, 主任研究員 (90415703)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 社会性昆虫 / カースト分化 / 兵隊 / 幼若ホルモン / 脱皮ホルモン |
研究実績の概要 |
シロアリの兵隊分化では,幼若ホルモン(JH)受容体Metシグナルの活性化と,転写因子HR39を含む脱皮ホルモン(20E)シグナルへの入力経路の重要性が示されている。まず本年度は,各因子の実際の相互関係を明らかにすることを目指した。ネバダオオシロアリを用い,20E合成やシグナル遺伝子のRNAiを行った個体で兵隊分化を誘導させ,HR39の遺伝子発現への影響を調べた。その結果,各遺伝子のRNAiは,HR39の発現に特に影響しなかった。次に,MetのRNAiを行った個体でRNA-seq解析を行ったところ,HR39の発現に影響を与える上流の候補因子が見い出された。更に,HR39のmRNAの局在解析も試みたが,解析例が少なく現時点ではポジティブな結果は得られていない。また,兵隊分化に影響を与える環境因子に関する解析も予備的に行った。具体的には,個体間相互作用で受け渡される腸内容物のタンパク量の定量化と,兵隊を特徴づける体表炭化水素パターンの形成に影響する因子の探索である。予備的な結果を踏まえ,次年度に詳細な解析を行う予定である。 アブラムシでは,ハクウンボクハナフシアブラムシのRNA-seq解析により,兵隊分化の初期過程で発現する遺伝子群を探索した。人工飼料上での密度操作により,兵隊予定個体を多く含む群と普通予定個体を多く含む群を調整し,両者の遺伝子発現を比較した。その結果,前者において,兵隊に特徴的な体表の着色やクチクラ硬化に関わる遺伝子や,20Eシグナル遺伝子が発現上昇していることがわかった。 関連する結果の一部は,複数の国内学会(第90回日本動物学会,令和元年度日本動物学会中部支部大会,第64回日本応用動物昆虫学会[開催中止,発表認定])にて発表した。また,シロアリの兵隊分化の生理・発生学的な知見や進化的な背景をレビューした論文を学術誌に投稿し,受理された(2020年4月公開)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
シロアリにおけるJH/20EシグナルおよびHR39の相互関係について,具体的な結果が得られつつあり,おおむね計画通りに進展していると考えられる。ただし,HR39の局在解析など,サンプル数が少なく進捗が芳しくない実験もある。新型コロナウイルスの影響で実験材料の確保が難しいため,サンプル数を多く必要とする実験は直ぐに行わないようにし,期限内で最大限の結果が得られるように努める。アブラムシにおいては,階級分化の分子・内分泌基盤に関する知見がこれまで乏しかったため,今年度はまずRNA-seq解析を行い,階級分化前の幼虫において発現が変化する遺伝子を網羅的に探索したところ,いくつかの興味深い知見を得ることができた。兵隊分化直前の1齢5日目においては,体表の着色やクチクラ硬化に関わる複数の酵素遺伝子の発現上昇が検出された。一般に体表の着色は20Eにより制御されると考えられているが,20Eシグナル遺伝子であるHR3やHR4が1齢3日目の兵隊予定個体で発現上昇していたことから,兵隊分化に20Eが関与している可能性が示された。一方,JHの関与を示唆する結果は得られなかったが,今後,幼虫へのJH塗布実験などによりさらに検証していく。 第64回日本応用動物昆虫学会では,代表者の前川と分担者の沓掛が小集会「社会性昆虫がもつ兵隊カーストの役割と分化機構」を企画し,2020年3月16日に開催が決定していた。グループでの研究の進捗を確認しながら,系統的に遠縁なグループ(アリ類)の研究者も招聘し,共通性や相違点を議論することを試みていた。新型コロナウイルスの影響により大会が中止になったため,研究の進捗状況の確認と今後の研究計画の立案は主にメールで行った。
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今後の研究の推進方策 |
新型コロナウイルスの影響により実験材料の確保が難しく,利用できる個体の割り振りを考慮しながら,重要な実験から集中的に進めていく必要がある。シロアリおよびアブラムシとも,研究が進んでいる種(ネバダオオシロアリおよびハクウンボクハナフシアブラムシ)での解析に集中し,重要な因子群の相互関係について明らかになってから,他種での解析を進めていく予定である。
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