研究課題/領域番号 |
19H03276
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研究機関 | 首都大学東京 |
研究代表者 |
高橋 文 首都大学東京, 理学研究科, 准教授 (90370121)
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研究分担者 |
上村 佳孝 慶應義塾大学, 商学部(日吉), 准教授 (50366952)
野澤 昌文 首都大学東京, 理学研究科, 助教 (50623534)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 種分化 / 交尾器 / ショウジョウバエ / 遺伝子マッピング / ゲノムシークエンス / 外部生殖器 / 産卵 / 生殖的隔離 |
研究実績の概要 |
オウトウショウジョウバエ(Drosophila suzukii)は他の種が利用しない新鮮な果実に産卵するため、産卵管が大型化している。この形態進化は交尾中の雌雄交尾器の立体配置に多大な影響を与え、種間交尾の際に交尾器がかみ合わないことによって生じる生殖的隔離の要因となっている。その背景にある遺伝的変化を特定するため、本年度は、Nanoporeシークエンサーを用いたロングリード及びIlluminaシークエンサーを用いたショートリードを取得し、D. suzukii のゲノムレファレンス系統(WT3)及び本研究で用いているD. suzukii系統TMUS8とD. subpulchrella 系統H243についてそれぞれ新たにゲノムアセンブルを行った。 それに加え、本年度はD. suzukii と近縁種D. subpulchrellaの戻し交雑個体を雌雄それぞれ約300個体ずつ解剖して生殖器の画像の取得及びDNAの抽出を完了させた。また、これら二種間の生殖的隔離に関与することがわかっている雄の外部生殖器paramere (pregonite)についてGras-Di法を用いたPool-seq法及び一部個体ごとのgenotypingにより、種間の違いの原因となるゲノム領域が第3染色体の一部に特定された。また、産卵管先端の形状(鋭利さ)の種間差について、新たにアセンブルしたレファレンスを用いたPool-seqデータの精査を行い、X染色体以外の染色体の影響が確認された。 また、これら二種について雌の蛹のステージ(APF48h)の腹部先端からRNA を抽出しRNA-seqを行った。その結果産卵管の内側にあるうろこ状のトライコーム形態の種間差について候補遺伝子を同定し、D. melanogasterの突然変異体の形態及びin situ hybridizationによる発現部位の確認を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
Drosophila suzukii のゲノムは既に読まれており、その情報がデータベースとして整備されていたが、二種間の差異を遺伝学的な手法により比較していくためにはクオリティーが十分とはいえなかった。本年度はまず、これらのScaffoldをつなげてより完成度の高いゲノム配列を得るためOxford Nanopore によるゲノムシークエンス及びアセンブルを行い、ゲノム配列情報が整備されていない同胞種D. subpulchrellaについてもシークエンスを行うということを計画していたが、これについてはbasecallやアセンブル手法の改善の余地は残るものの当初の目標はほぼ達成されたといえる。 本年度はまた、D. suzukii と近縁種D. subpulchrellaの戻し交雑個体を雌雄それぞれ約300個体ずつ解剖して生殖器の画像の取得及びDNAの抽出を完了させることができた。これら形態の情報と新たに整備したゲノム配列情報を用いて、Pool-seq及び一部雄個体の個別genotyping により雌雄いくつかの種間形態差についてマッピングをすすめることができた。また、雌の蛹ステージの腹部先端組織についてのRNA-seqによって、これまで予想していなかった産卵管内部のうろこ状の棘の形態に関する新たな知見と種間の違いの原因となる候補遺伝子を明らかにすることができたため、この遺伝子の機能解析及び発現解析の推進に時間を割いた。そのため、年度当初計画していた様々な形態を持つ戻し交雑個体を用いた、産卵基質選択実験や交尾実験などの行動実験には十分に着手することができなかったため、次年度に継続して推進していくこととなった。よって、本年度の研究はおおむね順調に進展していると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、戻し交雑個体を用いた産卵基質選択実験や交尾実験などの行動実験を推進し、産卵管や雄の外部生殖器の機能を明らかにしていく実験を継続するとともに、すでに明らかにした産卵管内部の棘状の構造の発生や種間の違いに関与する遺伝子に関する投稿論文をまとめる。 また先進ゲノム支援によるサポートを受けられることとなり、576個体のDNAサンプルのうち雌雄192個体ずつ(384サンプル)の全ゲノムシークエンスを行う計画である。これにより、既にPool-seqにより絞り込まれているゲノム領域内の組み換えのブレークポイントなどを明らかにすることができ、領域の絞り込みが進むことが期待される。 既にNanopore シークエンサーによるシークエンスにより、アセンブルの質を向上させた親系統のレファレンスゲノム配列を利用して、得られたリードをこれら二種のゲノムへマッピングし、形態の種間差と関連性の高い領域を検出する。雄のpregonite に関しては、昨年度行ったpool-seq によって、第3染色体の一部の領域の遺伝子型と高い関連性を示していることが明らかとなっているため、今後更に領域を狭めて機能解析をすすめるための候補遺伝子の特定を行う。更に、雄の外部生殖器の一部であるclasperの形態の違いや、外部生殖器ではないが交尾の際の適合性に大きく影響があると考えられるsex combの形態について二種の形態の違いや戻し交雑個体の形態の計測を進め遺伝子型との関連解析を進める計画である。 これらと並行して、候補遺伝子の機能解析を行うために、これら2種を用いたゲノム編集技術の確立を本格的に進め実施する。まずは、yellow遺伝子やwhite遺伝子などのノックアウト系統を作成し、可視マーカーが利用できるツールの確立を急ぐ予定である。
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