研究課題/領域番号 |
19H03279
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
中野 裕昭 筑波大学, 生命環境系, 准教授 (70586403)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 珍渦虫 / 無腸動物 / 珍無腸動物 / 新口動物 / 左右相称動物 / 後生動物 / 進化 |
研究実績の概要 |
珍渦虫を含む珍無腸動物門はその系統学的位置が解明されておらず、新口動物の一員であるという説と、初期に分岐した左右相称動物であるという説の2つの仮説で現在も議論が続いている。私は共同研究者との協力で、珍渦虫X. bockiを含む複数種の珍無腸動物のゲノム・トランスクリプトームプロジェクトを行なっている。そこで新たに得られたデータを用いて、ゲノム系統解析を行なったところ、珍無腸動物は水腔動物(棘皮動物と半索動物からなる動物群)と近縁であるという結果が得られた。水腔動物は新口動物に含まれることから、珍無腸動物門が新口動物であるという説を支持する成果であると発表した。今後は、さらにデータを増やし、また、解析方法を改良し、この結果を検討していきたい。 日本で採集された珍渦虫は未だに数は多くない。また、一つの場所から1匹しか採集できていない例も多く、日本で採集される珍渦虫、ニッポンチンウズムシX. japonicaの一匹一匹は非常に貴重である。従って、一つのサンプルを複数の実験で使用可能にするためにも、非破壊的にその構造を調べることは非常にメリットが多いと考えられる。私は、非破壊マイクロフォーカスX線コンピュータ断層撮影(microCT)イメージングを用いることにより、珍渦虫の内部構造を非破壊的に観察することに成功し、その手法を報告した。本手法は、イソギンチャクやゴカイなど他の海産無脊椎動物にも応用可能なものであり、今後の海洋生物学に貢献できると考える。 紀伊水道南方海域および熊野灘で行われた深海底生の動物相調査において、珍渦虫が一個体採集された。この個体は形態学的にこれまで採集されている日本産の珍渦虫と酷似していた。分子系統解析の結果、この個体もニッポンチンウズムシであることが判明した。本種の採集地点はこれまで静岡県伊豆半島沖が最西であったが、その記録を大きく更新する発見であった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
令和元年9月の台風15号、及び10月の台風19号の襲来により想定以上の荒天が複数回発生したため、予定されていた珍渦虫採集を長期間実施できないという事態が生じた。採集ができなかった期間はすでに入手していた珍渦虫や、比較対象となる他の動物種を用いた実験を実施していたものの、研究遂行上珍渦虫の採集は重要であり、実施可能な研究が制限されたことから、研究の進捗状況に遅れが生じた。
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今後の研究の推進方策 |
来年度以降も、珍渦虫の採集を多く実施し、その形態学的研究及び行動学的観察をぜひ進めたい。しかしながら、今年度のように台風などの天候に採集が左右される点は相変わらず否めず、これまで以上にニッポンチンウズムシの採集個体数が貴重なものになることが考えられる。従って、珍渦虫が採集された際は、その個体から極力多くの情報が得られるよう、これまで以上に入念に実験を事前に計画したい。具体的には、例えば初めに行動実験など生体でないとできない実験を実施し、その後に固定し、一部を形態学的研究、一部をゲノム学的解析のように1個体からも出入るだけ多くの成果が得られるようにする。珍渦虫の採集がより困難になった場合は、これまでに採集されている標本を扱う以外に、他種を用いた以下の実験を行っていきたい。まず、珍渦虫と同じ珍無腸動物門に属する無腸動物での研究も行うことで、珍無腸動物門全体の生物学的データを蓄積していきたい。また、珍渦虫の採集場所に生息する他の海産生物の研究を行うことで、その珍渦虫の生息場所の生態系の理解を目指す。さらに、他の海産生物を用いて、本年度の成果のmicroCTのように、今後珍渦虫で応用が可能な技術の習得も目指したい。
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