珍渦虫は、中枢神経系、生殖器官、体腔などの器官を欠く海産動物である。無腸類と共に「珍無腸動物門」を形成し、門内において珍渦虫が祖先的な形質を保持していることが広く認められている。本門が新口動物の一員、または初期に分岐した左右相称動物とされていることから、珍渦虫は新口動物を含む左右相称動物の起源や進化を考える上で重要な動物群であると考えられている。しかし、珍渦虫の生物学的研究は遅れており、生殖、発生、形態、生態などで解明されていない事象も多い。申請者は2017年に日本近海で比較的浅い水深の採集しやすい環境から珍渦虫の新種を報告し、その後も日本近海複数箇所でこの種の採集に成功している。本研究では、この種を新口動物や左右相称動物の起源や進化を研究する上で鍵となる実験生物とするべく、日本近海の珍渦虫の基礎的な生物学的な情報を蓄積することを目的としている。2023年度はより効率的に珍渦虫を採集する地点を探るために、これまで採集を試みていなかった名古屋大学菅島臨海実験所での調査、および三重大学練習船勢水丸による調査に参加した。2023年度はこれまでに得られた研究成果のアウトリーチ活動にも力を入れ、京都大学白浜水族館で開催された企画展において珍渦虫の説明パネルを展示し、国立科学博物館での企画展に標本を提供した。また、研究成果が筑波大学のサイトや筑波大学ポッドキャストで紹介された。さらに、日本動物学会大会や日本動物学会関東支部大会での研究発表も行なった。 珍渦虫研究の比較対象として実施してきたウミウシに関する研究でも成果がまとまり、日本貝類学会、2024 SICB Annual Meeting、EMBO/The Company of Biologists Workshopで研究発表を行なった。また、基礎生物学研究所主催のオンラインイベントにもゲスト出演し、学生が研究紹介を行なった。
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