研究課題/領域番号 |
19H03281
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
出川 洋介 筑波大学, 生命環境系, 准教授 (00311431)
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研究分担者 |
高島 勇介 筑波大学, 生命環境系, 研究員 (70833987)
橋本 陽 国立研究開発法人理化学研究所, バイオリソース研究センター, 特別研究員 (10824435)
山本 航平 栃木県立博物館, 学芸部自然課, 学芸嘱託員 (60806248)
中山 剛 筑波大学, 生命環境系, 准教授 (40302369)
石田 健一郎 筑波大学, 生命環境系, 教授 (30282198)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 共培養 / 枯死斑 / 殺生 / 相利共生 / 地衣化 / 内生 / 分離培養 / 分類 |
研究実績の概要 |
温帯域および亜熱帯域での野外調査を実施し、藻類・菌類間での相互作用を示す多数の試料を採集することができた。これらの試料に関する産地や採集日、生態写真、顕微鏡写真等の画像データ、また分離された双方の培養株情報、および、藻類・菌類相互作用に関わる先行研究の文献情報に関して、チームコミュニケーションツールSlackを用いて、データベース化を進めた。 野外調査により、特に、以下のサンプルが採集でき、それぞれ、解析を進めた。1.地衣化担子菌類:緩い地衣共生を示す地衣化担子菌に関する資料が多数採集され、日本産の既知の全種が確認され、また多数の新規分類群の発見、記載発表が進んだ。2.藻類殺生菌類:野外で肉眼的にも顕著にわかる藻類コロニーの枯死斑が多数観察され、画像データが蓄積されるとともに、その原因をなすと考えられる菌類の一部については腐生的に培養を確立することができ、目下、その分類同定と、藻類への殺生のインビトロでの再現を進めている。3.藻類バイオフィルムに生息する菌類:腐朽の進んだ林内の倒木上に発達した藻類のバイオフィルムの観察により、藻類細胞に吸器を挿しこむ相互作用例が確認された。同菌類の分離培養と分類同定について試行錯誤を進めている。 このうち、地衣化担子菌については比較的培養速度が速いことから、培養下での共培養系の確立を試行し、一部において培養下での再現に成功し、共培養時に特異的な現象についての観察も開始し、微細構造の解析も部分的に進めた。 このほか、藻類寄生性のツボカビ門・アフェリダ類、原始的な菌根性のケカビ門、地衣化子嚢菌類に関する多様性や、ケカビ門の内生細菌に関する新たな現象についての研究成果が 受理もしくは公表された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
データベースの構築:チームコミュニケーションツールSlackを用い、採集された資料に関する産地や採集日、生態写真、顕微鏡写真等の画像データ、分離培養株情報、菌類・藻類相互作用に関わる先行研究の文献情報など、フォルダを設けて、データベース構築を進めるための準備をした。 野外調査の実施:冷温帯の中部山岳地帯での継続調査、および亜熱帯域(奄美大島)での野外調査を実施し、菌類・藻類相互作用のサンプルを多数得た。奄美大島からは、日本新産属のシアノバクテリア共生性地衣化担子菌や、Vezdaea属、Thelocarpon属など藻類と緩やかな地衣共生をする多様な地衣化菌類、林縁部や市街地の塀など半人為環境下から藻類コロニーの枯死斑を多数検出することができた。長野県下からは、多くの地衣化担子菌類、および藻類バイオフィルム中の藻類細胞に吸器を挿入する未同定菌類が確認された。 各分類群毎の進捗:【担子菌門】協力者の升本が地衣化担子菌類の分類学的整理と共培養系の確立に関する学位論文を完成し、この中で、複数種の新産報告、新種・新属記載の論文発表がなされ、一部の材料を用いて共培養の試行錯誤がなされ、インビトロでの地衣共生を再現するモデル共培養系の確立にまで至ることができた。 【子嚢菌門】橋本により地衣化子嚢菌類の資料が多数得られ、一部は学会発表され、系統的に類縁な菌群について論文投稿が進められた。 【ケカビ門】高島によりクサレケカビ属の内生細菌が宿主の有性生殖を阻害する関する論文が公表され、山本により菌根性のアツギケカビ科の分類に関する論文が公表され複数の新規分類群が提唱された。 【ツボカビ門】協力者瀬戸により藻類寄生性ツボカビの分類学的整理がなされ新目の提唱、藻類寄生性のアフェリダの新種記載発表がなされた。
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今後の研究の推進方策 |
本年度から協力者の升本が学振PD研究員に身分変更となり分担者に加えた。学振PD研究課題との相乗効果を狙いながら事業推進に努める。新型コロナウイルス感染症の影響で、打ち合わせ会議やワークショップを実施することができなくなったが、オンライン会議を開催して相互交流をして、進捗報告や議論を行うようにしたい。 1)データベース:Slack上で引き続き情報蓄積を続行してデータベースの充実化を図り、本事業完了時に公表できるような形への整備を進める。 2)野外調査:可能ならロシア沿海州の亜寒帯域調査、熱帯域インドネシアでの国外調査を実施したく、植物防疫の許可申請を進めるが、新型コロナウイルスにより恐らく本年度内の実施は厳しい可能性が高い。長野県・茨城県での調査を継続するとともに、状況を見つつ、可能であれば八重山諸島および奄美大島での再調査を実施し、菌類・藻類相互作用を示す重要な菌類および、進化の鍵を握る新規菌類の探索を続ける。2019年度に実施できなかった釣菌法(事前に培養した藻類コロニーをベイトとして適用)について、長野県内のサンプル(昨年度藻類細胞への吸器挿入が観察された資料等)より藻類分離株を確立し、実験的に実施する。 3)内生細菌検討:得られた菌類、藻類の培養株について網羅的に内生細菌のサーベイを開始する。 4)共培養試験:また、これらの培養株から生育の速いものを選定して、共培養試行実験を開始し、地衣共生や藻類の殺生等の相互作用についてインビトロでの再現を試みる。培養スピードが遅いものが多いため、本事業期間中に適用できるよう長期培養を念頭に置いた共培養条件の改良を進める。 5)相互作用解析:共培養系が確立できた材料では、相互作用時特異現象を検出するために、可能な限り微細構造やゲノム比較による解析に着手していく。
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