研究課題/領域番号 |
19H03282
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
石田 健一郎 筑波大学, 生命環境系, 教授 (30282198)
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研究分担者 |
白鳥 峻志 国立研究開発法人海洋研究開発機構, 地球環境部門(海洋生物環境影響研究センター), 特別研究員(PD) (70800621)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 葉緑体 / 細胞進化 / 二次共生 / クロララクニオン藻 / ケルコゾア |
研究実績の概要 |
本研究は、「細胞内共生による葉緑体の獲得において2つの生物がどのように統合されて1つの光合成生物になったのか」をクロララクニオン藻についてゲノム比較解析により理解しようとするものである。そのために宿主要素と葉緑体それぞれに現在最も近縁と考えられる生物:宿主要素としてミノリサ系統群とその外側2系統群(クレード2、3)から2種、葉緑体要素としてアオサ藻2種程度のゲノム配列を取得し、既知のクロララクニオン藻のゲノム配列との比較解析を実施する計画である。 初年度はミノリサ(SRT609株)のゲノム解読を実施し、クレード2、3の培養株の確立、アオサ藻Ostreobium sp.のゲノム解読に着手する予定であった。ミノリサゲノムについては細胞回収法の確立に当初の予定より時間がかかった(計画を繰越した)が、結局二員培養の確立を試み、限界希釈法で希釈したミノリサに餌株を加え培養し、増殖したミノリサをさらに限界希釈法で希釈する手順を複数行うことで、餌を純化した。こうして確立した二員培養により培養したミノリサ(SRT609株)について、全DNAを抽出し、NovaSeq 6000及びPacBio RSIIでシーケンスすることに成功した。また、18S rRNAを用いた分子系統解析の結果、これまでアメーボゾアとして知られていたRhabdamoeba marinaがクレード2に相当することが判明した、確立済みの培養株(SRT404)を用いてゲノム解読に着手した。本種は真核藻類を餌生物として捕食することから、クロララクニオン藻の宿主モデルとしてよい候補生物であると考えられる。さらに、葉緑体要素としてOstreobium sp.の培養株をドイツの培養株保存施設より入手し、培養を開始した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
初年度は、ミノリサ(SRT609株)のゲノム解読を実施する予定であったが、効率的なミノリサ細胞の回収法確立に予定よりも時間がかかり、結局計画を繰り越すこととなった。そこで、2年目にかけて培養株内の餌生物を純化することにより本株の二員培養系を確立し、ゲノム解読を実施することができた。しかし、コロナウイルス感染症の流行の影響でシーケンス委託先で試薬の確保に時間がかかったため、アセンブリまでは進むことができなかった。 また、クレード2あるいはクレード3に属する新規生物の培養株確立を計画していたが、コロナウイルス流行等の影響で十分なサンプリングができず、培養株確立には至らなかった。一方で、既に培養株として手元にあったクレード2生物であるRhabdamoeba marinaについて、これまで精度の高いゲノム配列取得が困難であったため計画には含めていなかったが、真核餌生物との二員培養確立と餌生物のゲノム解読を併用することにより、比較ゲノム解析を行うことができる程度でのゲノム配列解読の目処がたった。 さらに、当初の計画ではクロララクニオン藻の葉緑体に近縁な系統として、Ostreobium spp.とBryopsis spp.のゲノム解読も予定していたが、Ostreobium spp.に関してはドイツの培養株保存施設から培養株を取り寄せ、培養株の培養を開始した。しかしその後、Iha et al. (2021)によってO. quekettiの全ゲノム配列が公開されたため今後の比較ゲノム解析にはこちらを用いる予定である。
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今後の研究の推進方策 |
宿主要素の近縁生物については、ミノリサ(SRT609株)のゲノム配列のアセンブリを進め、比較ゲノム解析に用いることができる程度にゲノムデータを整備する。また、Rhabdamoeba marina (SRT404 株)についても、ゲノム解読を完了させ同様のゲノムデータを整備する。葉緑体の近縁生物については、ハネモ類(Bryopsis spp.)のゲノム解読を実施する予定であったが、当研究室で純粋培養株の確立に成功したアオサ藻:Annulotesta cochlephilaを用いてゲノム解読を行うこととする。したがってこのA. cochlephilaのゲノム解読を進める。 一方で、Ostreobium queketti の全ゲノムデータ(Iha et al. 2021)が利用可能になったため、既知のクロララクニオン藻2種B. natans及びA. amoebiformisのゲノム配列との比較解析が可能であるため、この比較解析を進めつつ、他の生物についてもゲノム配列のデータの準備が整い次第、比較解析に加えて解析を進める。 この解析によって、クロララクニオン藻の系統における1)代謝経路の変化。特に光合成と糖代謝、脂質代謝、アミノ酸合成経路など。2)細胞周期と細胞分裂に関わる遺伝子の変化。3)細胞運動、特に鞭毛やアメーバ運動、その他細胞骨格関係の遺伝子の変化。4)走行性をはじめとする光応答に関わる遺伝子の変化。5)タンパク質輸送関係の遺伝子の変化を明らかにする。これにより、それぞれの遺伝子が共生藻由来か宿主由来かそれとも別の生物由来かなども含めて、葉緑体獲得に伴う細胞進化において、構成する遺伝子セットの変化がどのように起こったのかを具体的に明らかにする。
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