研究実績の概要 |
動物の体表には多彩な模様パターンが見られる。模様パターンの多様性は、個々の生物分類群に特有の「局所的多様性」と、系統をまたいだ複数の分類群に共通する「大域的多様性」という2つのレベルに分けることができると考えられる。本研究課題では、2つの多様性レベルとそれらに関わるパターン形成メカニズムの違いを踏まえながら、模様パターンの多様性が「なぜ、どのように」生み出されてきたのかを明らかにすることを目指している。本年度はまず、現生の魚類全科・全属(587科・5196属, Eschmeyer's Catalog of Fishes 2018による)の魚種を対象に、模様パターンのアノテーションを行うシステムの開発を行った。FishPix(国立科学博物館・魚類写真資料データベース)、FishBase等のデータベースで公開されている写真資料を活用し、個々の魚種・写真について模様パターンモチーフの有無を判定するWebベースのアプリケーションを作製した。このシステムを用いることで、およそ2万点の写真データについてアノテーションを実行し、現生魚類34,000種余り(同上による)のうち過半数以上、約18,000種についての情報を網羅する魚類模様パターンデータベースを構築することができた。さらに、一部の代表的な魚類分類群については、それぞれの魚種につき多数の写真を用いてパターン定量解析を行い、数理モデルにもとづくシミュレーションの結果と照らし合わせることで、種ごとに異なる模様パターンのバリエーションがどのようなメカニズムによりもたらされるかについて推測した。これらの結果をもとに、模様パターンに関する比較ゲノム解析を行う魚類分類群としてフグ目フグ科モヨウフグ属を選定し、うち1種(ホシフグ Arothron firmamentum)について全ゲノムシーケンスおよびドラフトゲノムアセンブリの構築を行った。
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